…………肉が焼ける匂いがする。

 先程ラビは飯を作ると言って台所の方へ行った。ハンバーグだとか言ってたな。
 あいつ料理できんのか…………確かに以前来たときにも台所には調味料も道具も一通り揃ってはいたが使い込まれているような様子ではなかったし、あまり台所に立つ姿は想像できなかった。

「お待たせ〜」

 って早。
 台所行ってからまだ五分位しか…………

「取り敢えず食ってからにするさ、冷めるし」
「ああ…………あ?」

 …………。
 何だこれ?

「ラビ…………」
「うん?」
「何だこれ」

 ハンバーグ、つってたよな?
 だが目の前にある皿の上には、米の上になんかの挽肉を炒めて卵でとじたような…………いやこれはこれで料理としてアリだろうが、取り敢えずハンバーグでは無さそうな「何か」が載っている。

「ハンバーグさ。うちのお袋の」
「…………ハンバーグ…………」
「一回しか食ってないけど、作ってるところ見てたから分量も手順もこれで間違いないさ。まぁ見た目があれだけど、これが中々結構旨いって。アレン辺りは結構食ってるし」
「…………へぇ…………」

 少し掬ってみる。甘辛い味が米に合って中々旨いがハンバーグでは…………。

「お袋が滅多に料理なんてしないし、時間もないからってこういう感じに」
「へぇ…………」
「そいや俺お袋の飯なんて三回しか食った事無いわ」

 …………。

「何やってんだ?」
「んあ? お袋? 素粒子物理学の研究者。大学で教授もやってるけど」
「…………はぁ」

 良し、全然分かんねぇ。
 
「何か良く分からんが忙しそうだな」
「うーん、まーね。つか、二年位顔見てないさ」 

 至極当然、何でもなさそうな顔でそう言ったラビはスプーンを咥えたままテレビのリモコンに手を伸ばした。何時もだったら行儀が悪いとその手を叩き落すところだが流石に飯を食わせてもらってる立場ではそれも出来ない。
 電源の入ったテレビに、先程のアレを思い出して一瞬焦ったがそんな事にもならず普通のニュース番組が始まった。
 しかし、一応「男」ならああいうのは喜んだ方がいいのか? 気持悪いだけでそれどころじゃねえのが本音だが…………。
 ああくそ、面倒くせぇな!

 色々と下らない事をグタグタ考えつつ食事を済ませ、洗い物を申し出て代わりにキッチンに立つ。
 途中何度か視線を感じて振り向くと、ラビは何が楽しいやら笑っていた。…………穏やかな笑顔にただならぬ物を感じて視線を逸らし、再び水を流す。
 …………アイツはいい加減、俺に誤解されるようなことは辞めるべきだ。この女たらし。つか俺は「男」だろうが馬鹿!

 自分自身が都合のいい誤解をしている事は棚にあげて、俺は心の中でラビを散々罵倒した。







 さっきから絶え間なく続く水の音に、絶対にそっちには目をやらないようにしながらも耳は敏感にその音を捉えてる。
 まぁ見たところで眼に入るのは透けもしないただの木目調のドアだから、別に見たところで問題はないんだけど…………
 だけどそんなドアですら、見てたら色々反応しそうな俺は心底若い、いや実際若いしそこんところは仕方が無い。

 ほんの少し燻る感情持て余しながらキッチンで幾つかの酒を混ぜてカクテルにしていると、

「…………んあ?」

 ビビビビビ、と携帯が震えだした。なんじゃいな、と小さなディスプレイを確認すると思わず眉間に皺が寄る。

「…………はい?」

 心底胡散臭げに取ってやると、

『うっわ嫌そうな声。ひっでぇなー』
「だってお前からの電話って嫌な予感しかしないんさ、ティキ」
『うわ酷ぇ。実に酷ぇ。人でなし!』
「うっさいさ。何の用?」
『いや、ジャスデロに聞いたんだけど。お前、早速お姫様家に連れ込んだんだって?』

 …………。

『相変わらず手ぇ早いな、お前』
「違うから。少なくともそういうつもりで連れ込んでないから!」
『何だ、そうなの?』

 ジャスデロの奴、余計な事言いやがって…………!

『つーかその反応。やっぱ気付いたか…………チッ!』
「気付いてたって…………」

 何に? …………あ

『で、コンタクトは替えたのか?』
「…………別に」

 確かに分かった今となっては、ユウが抱える「秘密」に何で気付いて無かったのか自分で自分が不思議なくらいさ。タイムマシンがあって過去に戻れるんなら、戻ってあの時の俺の首根っこを引っ掴んでガクガク揺さぶってやりたい。失態は数えられない位だ。というかついさっきも、だし。

『実際何で気付かなかったの? 馬鹿なの? 阿呆なの? 目ぇ悪いの?』
「…………否定は出来ないけど」

 先入観、というか、一番はあの大立ち回りを見たからだと思う。見てないティキにはどうせ分からないだろうからわざわざそこの釈明はしない。

『さて戻すけど、まだヤッてない訳ね?』
「…………」

 沈黙は肯定。というかたった今、俺とユウはそういう問題より遥か彼方以前だと思う…………。

『へーぇ、珍しく清らかなままなんだ。取り敢えず一発ヤッてから付き合うかどうか考えるような奴が。…………まぁいいや、俺に取っちゃラッキーだわ』

 …………う゛。そういやこいつにも、色々知られてるんだった…………。

「ラッキー、って何さ」
『だって流石に、お前の女になってたら寝盗るのも後味悪いし』
「…………は?」

 …………何だって?

『いやーそんな事になってなくて一安心。これで心置きなく口説けr』
「誰が! お前なんかに渡すかぁぁぁぁぁ!!!」

 聞くに絶えず、思わず怒鳴った!

「絶対、絶対渡さねー!」

 一方的に怒鳴って、携帯の電源を叩っ切る。
 携帯を床に投げつけたいのをぐっと堪え、ふと顔を上げると――――――

「…………、」

 そこには、ポカン、とした顔で立ち尽くしているユウがいた。




 …………ああああ畜生! ティキの野郎いつかぶん殴ってやる…………!



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