季節は十月の半ば。
 最早夏の熱気は消えて今は秋、そしてやってくる冬の気配を感じさせる、青くて高い空。
 いつも通りに屋上に集まった俺達は思い思いにそれぞれの昼飯を食ってたところ。
 ふと、デビットがうんざりした声を上げた。
 
「あー、だりぃだりぃ」
「面倒臭いですよね〜…………」

 まぁ、気持ちは分かる。むしろ全面同意さ。
 デビットとアレンの視線の先、校門から資材を搬入してくる業者をぼんやりと見守る。

「期間中、保健室にでもしけ込んで寝ててーもん」
「ですよねぇ」

 そう。この十月中旬の今、学校は週末に控えている文化祭に向けて忙しくなっている。
 去年までだったら全く興味無しでとっとと帰宅してるところだけど今年はそうは問屋が下ろさない。

「ヒッ…………神田達のクラスは何やるの?」
「…………」

 ジャスデロの問いに、問われたユウと俺は力なく視線を交わしあった。

「…………メイド喫茶」

 マジで一体誰の発案さ?
 俺がコムイからの伝言を聞いて出たLHRでは、既にやることは決まっていて後は人員の割り振りをするだけの状態だった。出てみて成程、これは居なかったら間違いなく一番面倒臭い仕事に回されるわけだ…………と納得した覚えがあるさ。まぁ結局は、出ようが出まいがやらされる事は変わりなかっただろうけど。

「面白そーじゃねぇか、俺らんところなんてただの出店だぜ? なぁジャスデロ」
「ね! 焼きそば作るのって熱いよね…………」
「なー」
「流行らしいですよねそーいうの。女の子狙って外部から変な客入って来ないとイイですけどね」

 アレンの言葉にまた俺達は力なく視線を交わしあう。

「…………ああうん、大丈夫。その辺は力一杯大丈夫」
「? どういう事だよ? 警備でも入れんのか?」
「メイド、全員ゴツいから…………」

 思わず明後日の方を見てしまう。ユウも何だか遠い目だ。

「「「?」」」
「…………メイドやるのは、男だけだ。女は奥で菓子作ってるんだと」

 ユウの非常に沈痛な言葉に、アレンとジャスデビたちは顔を見合わせ――――――

「ギャハハハハハ!」
「何ですかそれ笑えるんですけど!?」
「うっせーよ馬鹿!」

 人を指さして思いっきり爆笑しやがった。

「他人事だと思って…………お前らが三年になったとき同じ目に遭う様に呪ってやるさ!」

 昨日やった試着で鏡の中の自分は大変な、大変残念な出来だった。サイズ合わせの為に見てた女子の、「足、剃らなきゃね」という言葉が妙に冷静で凹んだ。

「嫌ですよそんなの。…………でもまぁ、若干名違和感なさそうなのが居ますね」

 アレンがチラッとユウを見た。見られたユウは眉根を寄せて「うるせぇ」とか言ってる。
 …………まぁ違和感も何も、ユウに関して言えば自然に見えるに決まってるさ。だって本当なら菓子作ってる方の人間だし。
 そう。俺が休めないのはそこが理由さ。
 だって、もし俺がいないところで勘違いした(いや勘違いじゃないけど)客がユウにセクハラでもしたらどうする?
 あとそれから俺だって見たい。ユウのメイド姿。それは自分の大変残念な姿を受け入れてでも、さ。

「よし、絶対当日行って指名してやるからな」
「止めとくさ、自分で言うのもなんだけど、本気でキモいから」

 いや、本当に。

 全く話を聞く気がなさそうな、目をキラッキラさせたデビットとアレンに溜息ついて、俺はその場でべちゃりと床に転がった。









「面倒さねぇ」
「そうだな」

 帰り道。ユウと一緒に駅まで向かう道すがら文化祭の話題を振ってみた。

「俺、あんなミニスカ履いて接客すんの嫌さ…………」
「ミニスカ…………」

 ユウが少し上を向いて考えるようにして(絶対想像してるな、これ)、それからブンブンと首を振った。
 そして溜息を付き、

「そういえば…………よくこんな巫山戯た企画で通ったな。他のクラスは堅い内容なんじゃねぇのか?」
「ああー…………三年年はね。例年学年ごとにやって良い事決まってるんさ。一年はこれまでの学習内容の展示企画、二年はフード系の出店。で、三年は何でもOK、最後に悔いが無いように本人達にお任せってね」
「何だそれ…………」
「文字通りさね。法に触れない物であればなんでも良しって」
「はぁ…………」
「ティキが三年ん時には、アイツのクラスはカジノやってたんさ。本人はディーラーやっててさ。俺随分勝たせてもらったけど」
「カジノ…………っていいのか? 賭け事って駄目じゃなかったか」

 ユウは眉根を寄せた。

「んー? まぁ、本当に金賭けるんじゃなくて、コイン購入させるけど増やしてもペイバックはしないっていうシステムだったからいいんじゃねぇ? ゲーセンみたいなもんさ」
「ああ…………」

 結局流されてたコインの半分位掻っ攫って大勝した。それで貰ったのは菓子と、二年の出店で使えるチケットだった。ティキのクラスがチケットを景品として出す為に二年連合を脅迫しただろうことは容易に想像が付いてたけど、まぁ時効だしいいか。
 ユウは少し納得したのか頷く。
 そんなユウを横目で見ながら思う。
 俺が着せられたメイド服は薄っぺらいテカテカ光るような素材のミニスカートに胸の大きく開いたようなフレンチメイド、いやあれをフレンチメイドだなんて言うことはフレンチメイドに失礼だろう。むしろ場末のイメクラででも使われてそうな奴だ。間違いなく駅前のパーティーグッズ屋で買ってきたんだろう。
 あれを、ユウが着たら…………、

 …………、…………。

 ちょっと想像したら下半身が若干熱くなってきたので慌ててその想像、いや正しくは妄想を追い払う。
 でも同時にそんなユウが周りの人間の視線に晒されるかと思うと胸がムカついた。
 っていうか流石にあんなのだと本人嫌がりそうなんだけど…………

「?」

 見過ぎたか、気づいたユウがこっちを向いた。
 何でも無いよと笑って誤魔化しておく。
 楽しみ、と言い切れないところが辛いけれど…………まぁそれも悪くない、そう思えるのはユウのお陰、なんだろう。




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