…………五月蝿ぇ。

 保健室から運んできたんだろう衝立の影で、外側の五月蝿さに微かに眉間に皺が寄った。
 先に着替えた奴らの「惨状」に、女子が、そして数少ない難を逃れた男子が歓声を上げている。…………嫌がらせにも程がある。
 確かに文字通りの「惨状」だ。昨日見たラビの姿のインパクトは絶句するには十分すぎた。本人は半ばヤケクソ気味に笑い飛ばしていたが。

「…………はぁ」

 思わず着替えの手を止めて溜息を付いた。
 非常に、とても、不本意だ。
 男としての格好に慣れすぎて違和感がありすぎる。しかもこんな仮装のようなものなど、尚更だ。紺色の布地を引っ張ってみるが現実は変わらない。
 中学の頃の制服の、親戚みたいなものだと思えばいいんだろう。
 諦めて足を通そうとして、ふと気付いた。足は通るが…………

「…………これ…………、どうやって着るんだよ…………」





 


 現時刻は午前八時丁度。
 各クラス共一般公開開始時間に向けて準備に余念が無い、筈。
 筈なのに、だ。

「何でお前ら此処にいるんさ…………」

 どうして最上級生のこのクラスには、下級生が三人もいるんだろうか。
 しかも三人とも筋金入りの「問題児」なもんだから、クラスメイト達は全く見えないふりで関わろうとしてこない。正しい選択だとは思う。いや、関わってる時間が惜しいのかも知れない。

「「「暇だったから」」」

 口を揃えての返答に思わず片頬が上がった。…………ったく…………。

「去年まで自分ところのに出席すらしてなかったラビには言われたくねぇよなぁ」
「ねぇ?」

 デビットとアレンが顔を見合わせて頷きあった。
 そりゃそうなんだけど、さ。

 今俺は着替え待ち。小脇にピンクと白のテカテカコスプレ衣装を抱えて、衝立の前で待っている。
 自分のクラスの準備は終わったのかエスケープして来たのかは知らないが、それにしたってどっちにしろ上級生の教室に乱入する理由にはならないだろうに。

「ラビ、空いたぜ」
「はいよ…………ってうわぁ…………」
「言いたいことは分かるが取り敢えず、着替えろ」

 先に着替えてたクラスメイトのそのヒドさに思わず変な声が出た。口元だけで力なく笑ったそいつに了解しました、と手で合図する。

「早く着替えろよー」
「お前ら自分のクラス帰るさ…………」

 テコでも動きそうにない、そんな様子の三人に力なく笑って俺は衝立の影に隠れた。







「はいはいはい完成ですよー!」

 ヤケクソ気味にデカい声張り上げて、衝立を張り倒さんばかりの勢いで外に飛び出す。
 瞬間、ポカンとした周囲の視線が一斉に集中するが、もういい。どうにでもなるがいいさ! どうにでもなーれ!

「…………、…………プッ」
「…………ッ、…………〜〜〜〜〜!!!」

 腹抱えて笑ってんな! そこ!
 案の定アレン達は俺を一目見るなり床に蹲り、腹抱えて震えてた。そりゃそうだけど! そりゃそうなんだろうけどさぁ!!

「なんつーか、AVに出てくるメイドってこんな感じだよな」

 暫く声もなく爆笑してやがった奴らは、やがてそれぞれ体を起こした。
 デビッドはまたしても化粧が流れて真っ黒になった目元を拭いながら笑う。

「僕はこれをメイドとは認めませんけどねぇ」

 笑いの発作が収まったらしいアレンは額に指を当てて溜息を吐いた。

「お前が認めるメイドってどんなんだよ?」
「それは勿論、イングランドの古き良き時代のあれですよ」
「「ああー…………」」

 確かに俺だってメイドさんって言われて想像するのはそっちだ。多分親父達の家にはいるだろうし。
 紺や茶のロングスカートに白いエプロン、頭には同色のカチューシャの清楚な…………

「皆が言ってるのって、こういうの?」
「「「?」」」

 メイド像について思いを馳せていた俺はそんなジャスデロの声に振り向いた。
 振り向いて、目を見張る。

 そこに居心地悪げに佇んでいるのは正しく今俺が思い描いた通りの格好をしたユウだった。…………いつの間に!? ていうかどうして俺と同じのじゃないんさ!?

「おお、それそれ! でもまぁ、お前ほんっとーに似あうよな! 男としてどうなんだよそれ」

 デビットが面白がって、歓声を上げて近寄る。…………やばい開いた口が塞がらない。顎関節症か。

「ん? …………、ラビーアレンー、お前ら口閉じろよ。すっげぇ間抜け面」
「「!!」」

 ユウの傍に行ったデビットに呆れ気味に言われて慌てて口を閉じる。
 それからアレンを見ると、丁度アレンもこっちをこっそりと伺っていたところだった。

「「…………」」

 互いに何やら気まずくてすっと視線を逸らす。

「おい神田、これ下はどーしてんだ?」

 ユウのすぐ傍にいたデビットが、何でもないことの様に言った。
 その内容に気を取られてユウ達の方に視線を向ける。
 その瞬間。

「は? 、!?」

 デビットがユウのスカートの裾を摘まんで、捲り上げた。



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