止める間もなかった、と思う。
 後ろからユウのスカートを捲り上げたデビットはそのまま感想を述べる。

「お前、こんな所まで女モノにしなくたって良かっただろーに。趣味か?」

 うんデビット、それ絶対ユウの自前。
 あああ…………さようならデビット、お前のことは忘れないさ…………。

 一呼吸分の時間を置いてから、デビットの体は「吹っ飛んだ」。
 ジャスデロが、「あ」の形に口を開いたまま凍っている。

 デビットを思い切り蹴り飛ばしたユウは無表情でツカツカと仰向けに倒れたデビットに歩み寄り、その顔を踏みつけた。

「テメェ…………何してくれてんだコラ」

 おおっと、久しぶりの大魔神降臨です。

 多くのクラスメイトの視線を一身に浴びながら、ユウはデビットの顔にめり込んだつま先をグリグリした。鼻が、鼻が折れる…………

「か、神田…………その辺にしておかないと鼻が…………」

 アレンが極めて控えめに声を掛ける。
 その声にちら、とアレンを見たユウは(見たというよりは睨んだ、という方がしっくりきそうだったけど)デビットの顔から足を外した。
 デビットはべちゃり、と倒れたまま動かない。そんなデビットにジャスデロが慌てて駆け寄った。

「…………自業自得だよなぁ」
「でも、あそこまでしなくたっていいんじゃ」

 ジャスデロがぺちぺちとデビットの頬を数度叩く。と、呻き声を上げてデビットが起き上がった。

「〜〜〜〜! くっそ痛ぇ!」
「デビット、それ自業自得つーんさ。知ってる?」

 スカート捲りとか…………男子小学生じゃないんだからさ…………。
 ユウには性的な冗談は一切通じない。そういう事に関して、物凄く敏感で潔癖だ。まぁ女の子だし、それもそうだろう。

「テメェ俺の高い鼻を潰す気か!」
「知るか。潰れろ。別んところも踏み潰すぞ」
「「「「「「ヒィィィィィィ!」」」」」

 別の所=男の急所、だ。
 情け容赦無い言葉に、教室のそこら中から悲鳴が上がった。青ざめ、前屈みで股間を庇う奴もいる。
 俺とアレンは前屈みにこそならなったけど、互いに青ざめた顔色で視線を交し合った。――――――本気でやりそうな所が心底恐ろしい。男にとっちゃあ最強の恐怖だ。

 一方でその恐怖が微塵も理解出来ないだろう女子が、うんざりと呆れ顔で、

「そこの下級生、そろそろホームルームに戻りなさい。私達は忙しいの。貴方達がいると準備が進まないわ」

デビット達をつまみ出した。







 お騒がせ下級生三人組が居なくなると、準備は滞り無く進められた。
 焼き菓子の搬入に忙しい女子とは別に、男子は男子で一箇所に集まる。衣装は二通り、俺と同じピンクのテカテカかユウと同じ紺のクラシックタイプか。
 満更適当に決めたわけじゃないらしくて、比較的大人しめな、もしくは地味な容姿の奴には紺が、派手な奴にはピンクが当てられている。
 笑えるのはピンク、ドン引きされそうなのは紺だ。正直どっちがマシとかは特に無い。

「おいラビー、客引きの順番決めるぞー」

 委員長の声に応じてくじ引きが引かれる。
 と、一人が異を唱えた。

「神田はやめといた方がいいだろ」
「「「ああー…………」」」
「?」

 その言葉に何人かが釣られたように同意の声を上げ、名指しされた本人は不可解げな顔をする。

「詐欺罪でしょっぴかれるわ、俺らが」

 …………確かに。
 ユウに客引きさせといて実際はこんなのばっかりです、じゃ幾ら何でも詐欺が過ぎる。色々と洒落にならない。

「…………」

 色々とフクザツな顔でユウは黙り込む。
 俺達はユウを除いた残りの輩で順番を決め、散り散りに持ち場に向かった。



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