「ただいまー」
「おかえりー。あいつどうした?」
「適当にボコッて警備に突き出しといたぜ。半殺しにしようと思ったけどオッカネー先輩が後ろで見張ってたから出来なかったんだよ」
「嘘つけ、おっかねーのはお前らさ」

 同級生達がストッパーにならなきゃ、何処までやってたんだか。

「いいじゃないですか別に。所でラビ、紅茶下さい」
「俺はコーラ」
「はいはい、っと」

 一仕事終えて疲れた、そんな顔で要求してくるアレン達に大人しく従いカウンターへ向かって注文した。

「11番、コーラと紅茶1つずつね」
「はいはい」

 どちらも用意してあるものを注ぐだけだからその場で待つ。
 一度奥に引っ込んだその子が携えていたのは、紅茶とコーラ、それから、

「はい、お待たせ」
「何これ? 何処テーブル?」

 頼んだ記憶がない、クリームをたっぷり載せたスコーンが二つ。

「11番に。騒ぎ、収めてくれたでしょ? だからお礼」
「いいの?」
「いいのよ」

 周囲をぐるりと見渡せば、女子達が頷いていた。同性として、いや、女としてアレは許し難い事だったんだろう。双方が男(仮)であったとしても。
 異論はないようなので有り難く頂戴していく。

 スコーンを目の前に置くと二人は一瞬目を見張った後、素早く手を伸ばし、それはあっという間に二人の腹に収まった。






 それからはそこそこ平和だった。
 そこそこ、というのはやっぱり100%平和だったとは言い切れないからだったけど。
 休憩に入ってたユウは暫くした後再度店の中へ出てきた。まさかそのタイミングでユウのじーさんばーさんが見に来るとは…………。
 じーさんが卒倒し、ばーさんはそれを「あらあら」とかまるで呑気に見守っていたけどあれはきっと呑気に見守ってていい感じじゃなかった。
 ユウはといえば余り気にした様子もなくばーさんと普通に会話してた。…………ちょっと気になったから後からそれとなくユウに訊くと、想像通りというかなんというか、じーさんは入婿で家の中ではむしろばーさんの方が強いらしい。
 俺は何やら自分の将来をチラリと脳裏に描きかけて、止めた。きっと懸命な判断だろう。

 まぁそれ以外は取り立ててトラブルもなく、時間が過ぎた。
 やがて一般公開時間が終わり、外部からの客を締め出した後に待っているのは生徒会企画だ。
 企画開始前の時間、俺とユウは程々にクラスの片付けに参加しながら、未だに自クラスに戻る気配のないアレンとジャスデビを構っていた。まぁ特にアレンは、重いものを持たせるのに重宝されてる(女の子に頼まれたら、ノーとは言えないのが紳士の性らしい)からこれはこれでいいんだろう。うん。
 丁度俺の正面でテーブルクロスを畳んでいたユウが、ふと思い出したように訊いてきた。

「生徒会企画って何やるんだ?」
「あれだろ、全校参加のハンターゲーム」
「ハンターゲーム…………って何だ」
「テレビとか見たことない? ハンターとチャレンジャーに別れて、鬼ごっこするって奴」
「あー…………」

 正月とかに、よくやっている。

「誰が追いかけるんだ?」
「さぁ? 始まる頃にアナウンスあるんじゃない?」

 詳細は始まる迄秘密。聞いた話だけど生徒会企画は毎年そういうものらしい。

「でも、逃げまわるのも面倒ですよね。追いかける側なら追いかけなきゃ良いだけですけど」
「ヒッ? 逃げる方だって、捕まっちゃえば…………」
「それは何か腹立つから却下です却下」

 暫くしていると、生徒会の奴がダンボール箱を持ってきた。

「何これ?」
「タスキ?」

 中に入っているのは、青と赤の細長い布切れだ。
 同級生に混じってしげしげと眺めていると、校内放送の開始を告げるチャイムが鳴った。

『ただいまより、生徒会企画を開始します』

 …………帰らなくていいんさ? アレン達。

『ルールを説明致します。出席番号偶数の生徒は、赤いタスキを。奇数の生徒は青いタスキを取ってください』

「ユウ、出席番号いくつ?」
「3107」

 奇数だ。
 因みに俺は3136なので偶数。赤いタスキだ。

「俺達は二人して赤だな」
「ね!」
「アレンは?」
「青ですね」

 ふーん?

 生徒会の奴が声をかけて回り、それぞれの色のタスキが配られた。ちゃっかりアレン達も貰っていたけど足りなくなってる様子はない。多めに用意してあるんだろう。
 赤いタスキは一枚の布を縫いあわせて繋げてあるけど、青いテープは二本の布をマジックテープで二箇所止めてあるだけの作りだ。

『青いタスキの人はチャレンジャーです。放送終了後、直ちに行動してください。立ち入り禁止区域でなければ何処へ逃げても構いません。赤いタスキの人は、ハンター役です。チャレンジャースタートの五分後のハンタースタートで行動を開始してください』

「うわ…………」
「はは、お気の毒様アレン。嫌がった張本人がねぇ…………」

 嫌そうに顔を顰めたアレンの肩を軽く叩いて置く。

『捕獲認定は青いタスキを奪い取る事です。布の一部であっても構いません。逆にチャレンジャーの生存認定はタスキが完璧な状態であることです』

「あー、毟りやすいようになってんさねこれ」

 マジックテープだ。簡単に外れるだろう。

『尚、二時間後のゲーム終了時に生存していたチャレンジャー全員、及び、ハンターのチャレンジャー捕獲数上位十名には購買での年度内一杯使用可能な食料品フリーパス券が贈呈されます』

「え」
「え、景品付き?」
「…………」

 ああ、此処に俄然やる気になったのが一人…………。

『その他、定時連絡などは随時放送で行います。それでは…………』

 ガシッ

「逃げますよ!」
「あ?」

 え? アレ、

『スタートッ!』

 スタートの言葉と同時に、誰よりも早く動いたアレンが、ユウの手を掴んで教室から飛び出して行った。



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