「早っ」
アレンと、アレンに引き摺られるようにして連れて行かれたユウはあっと言う間に廊下の角を曲がり姿を消した。
食べ物が絡んだ時のアレンの執念は、ナメてはいけない。
「どーするよ?」
「どーするって」
「いちお、探し行くか? 俺ら別に購買のパスなんかどうでもいいけどよ」
赤タスキを指に引っ掛けてブンブン振り回すデビットが横目で俺を見る。
まぁ確かに。あればあったでいいかもしんないけど、別にそこまで魅力的じゃない。
というかそんなもんがアレンの手に渡った暁には、きっと毎日購買のパンはSOLD OUTだ。
「んー。これ結構時間掛かるんだよな?」
「二時間…………だっけ?」
ポケットから丸まった文化祭パンフレットを開いたジャスデロが頷いた。丸二時間、此処でぼーっとしてても仕方ないし。しかも購買が機能しなくなるのは、少し都合が悪いし。
そして、何より、
アレンとユウを二人きりにしておきたくないという俺の事情により――――――
「じゃあ、あの二人狩りに行こうぜ」
ニヤリ、と笑ったデビットに頷いた。
開始から三十分もすると、校庭に作られた特設ゾーンに次々と人が集まってきていた。
ハンターに捕まった奴はあそこに行くらしい。
俺はモヤシに誘拐さながらに引っ張ってこられ、着いたのは科学準備室だった。コムイの城だが、今は前回入ったときと違って殆ど器具も薬品らしい瓶も見当たらない。文化祭絡みか?
「こんな怖い所、誰も探しに来ませんよ」
それはいいがそもそも何で俺はコイツに引きずられてきたんだ。
文句をつけると、
「だって、いざという時に身代わりは必要でしょう?」
「お前…………」
コイツ…………イイ性格してやがる…………。
文句の一つでも付けようかと思ったが、やめた。どうせこいつの方が口は達者だ。腹が立つだけだろう。
争うことすら馬鹿馬鹿しくて、壁に体を預けて目を閉じた。モヤシもそれ以上絡んでくる事も無く、俺達の間には沈黙が落ちた。
それから十五分位した頃だった。
『おいおい、此処も見なきゃいけないのか?』
「「!」」
誰かの声がした。ラビ達ではない。
思わず寄り掛かっていた壁から体を放し、少し離れたところで同じように体を起こしたモヤシと視線を交した。
目で付いてこい、と意思表示したモヤシに倣い、準備室のより奥の方へと進んだ。機材の影に丁度隠れられそうなところを見つけて、そこに身を隠す。
『やめとこう、コムイ先生の何かがあるかも知れないだろ』
『こんな危ないところ、誰も来ないだろうしな』
最もだ。俺だって出来れば入りたくない類の部屋だ。
誰だか知らんが出て行くだろうと安堵に溜息を付いたとき、
『あれ? 今此処見てたんさ?』
「!」
「っ!」
バッ!
危うく声を上げかけた俺はモヤシに掌で口を塞がれた。
力技で人を黙らせておいてから注意深い眼差しでモヤシはドアを見つめる。
『ああ、うん。奥は行ってないけどな』
『あっぶねーもんな、ココ』
『コムイ先生の部屋だもんね! ヒヒッ!』
…………全員いるな。それにあと、声だけじゃ分からないのが何人か…………。
『奥か…………準備室、見てみるさ?』
「「!」」
ラビの言葉に俺とモヤシは顔を付き合わせた。…………こいついつまで人の口抑えてるんだよ。
手をどかさせてから、どうする、と目だけで問う。すると少しの間思案したモヤシは音もなく立ち上がると、コムイの机の上にあった加湿器に手を伸ばした。電源を入れて、それを物陰に隠す。
今ひとつモヤシの狙いが分からず、白い煙を吐き出し続ける機械を見ていると、外から足音が近づいて来た。
ガチャ
「誰かい――――――ヤバい! 逃げろ!!」
バタンッ!
一度は開かれたドアが、直ぐに閉められた。
『どうしたんだよラビ!?』
『何か煙立ってた! コムイの薬かもしれんさ!』
『撤収――――――!』
バタバタと足音が逃げ去っていく。
…………成程、この煙をそう解釈したのか。
数人分の足音が走り去り、隣の教室からは気配が無くなった。
「…………やり過ごしたか?」
「みたいですね」
「どうする、移動するか」
「うーん…………」
今回はやり過ごしたが、何時までも同じところに留まっていいものかは大変疑問だ。
「じゃあ…………」
「「「ココココッ、コムイ(先生)!!」」」
「何だい揃って、ニワトリみたいに…………」
校庭の特設ゾーン、ゲームオーバーになったチャレンジャーが行くところである場所のすぐ近くの本部にコムイはいた。
「お前の準備室、変な煙漏れてんだけど!!」
危険物を校内に置くなって!!
「ええ?」
「…………おい、中毒者出すなよ」
同じく本部にいたクロスが心底嫌そうな声をあげる。
「いや…………でも、文化祭期間中は一般人が入ってくるから、薬品と機材は全部地下倉庫だよ? 科学部の出店のために準備室を使わせたから、危険なものは何も無いんだけどなぁ」
「文化祭期間中だけじゃなくて是非永遠にそうしてくれよ」
デビットの台詞はコムイにスルーされた。
「煙…………煙ねぇ? あ、もしかして」
「何かあんの?」
「加湿器の電源、入れっぱなしかも」
「加湿器ぃ?」
コムイの口から出る単語にしては平和的過ぎて、思わず語尾が跳ね上がる。
「うん。科学部の出店の中に、乾燥しすぎると良く無い物があってねー」
「…………取り敢えずそれが何なのかは怖いから聞かないけど。じゃあ、加湿器の電源入れっぱなし…………」
言いながら先程逃げ出してきた科学室とその隣の準備室の辺りの窓を見上げた。科学準備室の方のカーテンは小さく開いて…………
「あ――――――!!」
叫んだ俺に視線が集中する! だけどそんな事はどうでもいい!
「ヒッ! な、何?」
「いた――――――!!」
俺の叫びにその場の全員が顔を上げる。察知して離れたか、カーテンの隙間にはもう誰もいない!
「い、いた?」
「今、あそこからアレンとユウがこっち覗いてた!」
「何だと!? じゃああいつら、あそこにいたのかよ!!」
「畜生、やられたさ!」
こうしてられるか!
俺達は土を蹴り上げて、一路校舎を目指して駈け出した!
「…………うーん、実に楽しそうだなぁ」
「…………」
「僕達もいれてもらえないかなー」
「やめとけ、歳考えろ」
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