帰りのSHRを終えて、下校時間。
 私立らしく迎えの車がちらほら見えるが俺にはそれは関係ない。電車と徒歩だ。
 それにしても、と靴を出しながら思う。
 …………学校の周辺に怪しい他校生がたむろしています、気をつけてくださいって…………どれだけ過保護だこの学校。
 SHRでの伝達事項は思い出すと笑いそうになる。大体何だ、「怪しい」「他校生」って。不審者ですらないんじゃねぇか。
 んなもんそっちの学校に伝えておけばいいだけの話だ。大体からして俺の以前通ってた学校なんて道挟んで向かい側に別の学校が、徒歩10分以内に更に二個も別の学校あったんだぞ。(その所為で最寄り駅は登下校時間ともなればいつも学生で超満員だった)

「!」

 足を入れた瞬間、異物感があって足を抜いた。
 
「?」

 学校指定の通学用の革靴だ。因みに男子指定の物だがサイズが無かったから特注だと聞いている。
 中を引っくり返してふると、バラバラと画鋲が落ちてきた。

「…………」

 誰だこんな古典的な嫌がらせする奴は。
 小学生の手口か。
 左右に五個ずつ仕込んであるそれを全部振り落として念の為と中に手を入れて確かめる。もう無い。
 散らばった画鋲を片付けようと拾っていると。

「言わんこっちゃないさねぇ」

 そんな声に、振り向いた。
 そこにいたのは呆れ顔で腕を組んでいる赤毛の奴。
 そう言えば、六限目の授業にも帰りのSHRにもいたな、こいつ。

「何、折角転校してきた割には早速虐められてるんさ?」

 折角って…………。

「お前にか?」
「はあ? 何言ってんのあんた」

 画鋲を仕込んだのはお前かと聞いたつもりが相手は馬鹿にしたように眉根を跳ね上げただけだった。
 そいつは自分の靴を出すと、放り出して靴を履いた。言いたかったのはそれだけだったようで後はさっさと帰っていく。
 何だか知らんが奴は何か俺に含むところがあるらしい。どうでもいいが。というか関わり合いになりたくない。あんな目立つ奴と…………
 
 取りあえず置いていく室内履きにまで悪戯なんざされても困る為、靴を袋に入れてジャージと一緒に放り込んだ。
 
 





 今日はジャスデビともアレンとも帰りの時間がダブらなかった。
 仕方ないから一人で帰り道を歩く。
 適当に栄えてる辺りの、流行の店でも見ていこう…………そう思って向かった方向は駅前の辺り。
 晴れてるとはいえ平日のこの時間帯はそれほど混雑していない筈、だった。
 何時もなら。

 …………ああ、これか…………。

 確かに、黒い詰襟の、他校生と一目で分かる奴がうろついている。
 しかもどいつもこいつも人相は良くないと来ている。こりゃ関わり合いになりたくない部類さ。
 血の気の多いデビットや、アレン辺りなら喜んで絡まれに行くだろうけど俺は平和主義者なんだから。

 足早にそいつらの傍を通り抜けようとして――――――肩を掴まれた。

「っ…………何?」
「やっと見つけたぜ、この野郎。…………面貸せよ」




 ドッ…………と、鈍い音が腹から響いた。
 幾度目かも分からない衝撃に意思に反して低く呻き声を上げる。吐く様な胃の中身は、とうにない。
 さっきから散々殴られ蹴られでもう訳が分からなかった。
 肩を掴まれ囲まれ、ビルとビルの間に連れ込まれて、数人掛かりで散々殴られたし、蹴られた。
 奴等の罵声を統合すればどうも俺は奴等の顔役の女を寝取っていたらしい。何時の事か、誰のことかも分からないけど。
 奴らが学校の近くを探してたのは、俺を探す為だったんだ。
 そんな事をつらつら考えてると、俺の意識が別の所にあるのに気付いたのか、誰かが視界の端で拳を振り上げた。

 ガッ!

 横っ面を殴られて、口の中に鉄の味が広がる。
 
「おい、起きろよ」
「…………起きてるさ。顔はやめてくんない? あんたらと違って整ってんだから」  
「この野郎っ!!」

 煽るような事を吐き捨てると視界の端で誰かが角材をとったのが見えた。
 あんなので殴られたら、流石に死ぬか?
 考えている事の割には恐怖も無く、ぼんやりと振り上げられた角材を見る。
 
「おい、そこ!! 何やってんだ!!」

 その時。
 鋭い声が、掛けられた。
 
「ちっ! おい、行くぜ! 人が来る!!」

 俺の腕を抑えてた奴も、角材を振り上げてた奴も慌ててバラバラと逃げていく。
 放り出された俺は未舗装の汚い路面に投げ出される。

「…………ってぇ、」
「おい、お前大丈夫か!?」

 大丈夫じゃないさ…………。

 目が眩むような痛みを堪えながら顔を上げる。
 助けに入った誰かは、俺を抱き起こして驚いたようだ。

「なっ…………お前、」

 驚いた声に、聞き覚えがあった。
 眩暈その他を無理に押して目を開くと、そこにいたのは――――――

「何やってんだよ…………」

 俺のクラスの、転入生だった。



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