「…………第一保健室」
モヤシと共に逃げ込んだ場所を見て、珍しいこともあると小さく驚いた。
モヤシは兎に角クロス先生が苦手らしく、滅多な事では此処に寄り付こうとしない。
「今は誰もいないから大丈夫です」
まぁ苦手なのは保健室自体じゃねぇしな…………。
「あー。疲れた…………」
最初に部屋を突っ切って、庭側のドアのカーテンを閉めてドアの鍵がかかっていることを確認したモヤシはぼやきながら長椅子に座った。そのまま寝そべりたそうな顔をしている。それをしないのは襲撃を警戒してるんだろうか。さっきので絶対デビットは殺る気に火が付いたと思うぞ。
外からはBGMらしき曲と、何かアナウンスらしき声が流れている。曲と混ざっている上に恐らく放送元であろうグラウンドからは離れているため、聞き取れない。
時計を見ると意外にも時間が経っている。後三十分程で終了だ。
このまま隠れ切れればいいが…………と溜息を付いた。
俺と、そして恐らくはモヤシの願いも虚しく、十五分経った頃外に気配を感じた。
「「…………」」
先に気付いたのは俺だった。数瞬遅れてモヤシも音もなく長椅子から立ち上がる。
庭側からも、校内側からも、両方に気配を感じる。庭側のドアは鍵がかかっているから挟み撃ちにはされないが、庭側へ逃げるという退路は断たれている。
「どうする」
外の気配は、入ってこそ来ないが確実にこちらを伺っている。此処に俺達がいることは十分承知なんだろう。恐らくはラビ達だ。
校内側に二つ、庭側に一つ。校内側がジャスデビで、庭がラビだろう。多分。
「今更隠れるわけにも…………。正々堂々、迎え撃ちますか」
「正面強行突破だな」
「ですね。出れたら二手に分かれましょう。どっちがいいです?」
「右」
「了解。じゃあ僕は左へ逃げます」
後十五分ばかりだ。逃げ切れるか。
ドアへ近寄った俺達は顔を見合わせて頷きあい――――――
思い切りドアを開いて、そこに「あった」障害物を蹴り倒して逃げ出した。
散々校内を探しまわって辿り着いた第一保健室。まさかあそこには行かないだろう、だってあそこはクロスの居城だ――――――そんな俺達の思惑を見事に裏切って二人はそこにいた。いや、顔は見てないから本当にあの二人かは分からないけど、でも十中八九あの二人だ。じゃなきゃ、こんなおっかない所に隠れるなんて思いつかないはず。
保健室は庭側からも校内からも入れる様になっていたから、俺とジャスデビは二手に別れてそれぞれドアから中を伺っていた。
カーテンは隙間無くしっかり閉められていたし、庭側に通じるドアは鍵が閉められていたけどジャスデビが(というかデビットが)踏み込んだ際に退路を断つって意味で俺は此処に控えてた。何つってもデビットはさっきの事を相当腹に据え兼ねているらしく、自分の手でアレンを討ち取る事に執着してるからだ。
さて、そろそろデビットが踏み込むか――――――そんな瞬間。
カエルが潰されたみたいな悲鳴が上がった。
『う゛ぎゃっ!!』
「!?」
何さ!?
思わず腰を浮かせる。
『テメェェェ! 一度ならず二度までも――――――!!』
「!」
なんてこった、逃げられたんさ!?
バタバタバタ、と慌ただしい足音が走り去っていく、俺も慌てて校内に通じる近くの入口から中へ飛び込んだ。
保健室の入り口付近で、ジャスデロが一人ポツン、と立っている。
「ジャスデロ!」
「ラ、ラビ」
「逃げられた?」
「ヒッ…………うん」
「どっち行った?」
「アレンが左、神田が右に行ったよ」
つーと間違いなくデビットは左に行ったな…………
「つかお前、どうしたんさ?」
「三人とも足速いから…………」
「ああ…………」
基本的にジャスデロの身体能力は高い方じゃない。それがましてや、あんな三人が比較対象じゃ無理ってもんだろう。
さっさと諦めて見切りを付けるのは、とても正しいと思う。
「校庭行ってるか?」
「そうするよっ!」
ジャスデロが踵を返して、校庭へ向かっていった。
俺は…………
「…………一応、探すか…………」
何処かに逃げ去っただろうユウを探すべく、右の方へと足を向けた。
小説頁へ