「…………見つからねー…………」

 デスヨネー。

 ユウの足の速さは並の男じゃ敵わない。ましてや既に何十秒かの出遅れで、それで見つけられたら奇跡だ。しかもリミットはあと数分のところまで減っている。
 やや諦め気味に、適当に辺りのドアを開けたりして探す。

「!」

 って、いた!

 俺がドアを開けた先は二年の教室。
 中にいたユウが警戒する顔でこっちを睨みつけてきた。驚いた様子は無かったから、気付いてたんだろう。俺が近くにいることに。

「あー…………」

 うわぁ。めっちゃ警戒してるよ…………。
 これはあれだ、道端の猫と一緒だ。うっかり手を出したらバリッってやられる感じ。

「いや別に俺はユウ捕まえようとか思ってないから、そんなに警戒しなくていいと思うんさ」
「…………近寄んな」

 信用してねー!
 きっちり間合い取られてる。

「ユウもフリーパス欲しいの?」
「別にいらねぇけど、今更捕まるのは腹立つ」

 ああ、そりゃ確かに。
 ずっと逃げ続けてきたんだしね。アレンと。

 他意は無いことを示すためにその辺の机に座った。
 窓際の方にいるユウを真っ向から見つめる。視姦ばりに、舐めるよう見つめてみた。

 美人だよなぁ…………。

 中坊の頃はどんな格好してたか分からないけど、女の子の格好をしてたならさぞかし野郎共にモテただろう。

 欲望だらけの目でジロジロ見てたら、流石に何かを察したかユウが居心地悪そうに身じろいだ。

「…………何だよ」
「いんや別に? 何でも無いさ」

 そんな俺を不気味そうに見たユウは、俺に追いかける意思がないと納得したのか窓ガラスに背中を預けた。暫く無言になる。
 外からは歓声とBGMが聞こえてくる。
 
 ――――――触りたい。
 触って、舐めて、それから耳元で囁きかけてみたい。
 妄想するだけなら自由だ。妄想するだけなら、だけど。

 まるでこの距離が関係性のそれそのままで思わず苦笑いしたくなる。

 だけどいつかきっと俺は飛び越えて距離を詰めるだろう。絶対に。


 ドンッ!


「!」
「お、花火」

 校庭から上げたんだろう。花火が一つ上がった。
 
「あ、あれ終わりの合図だ」
「そうなのか?」
「プログラムに書いてあるよ。ほら」

 ポケットから小さく折りたたんだプログラムをだして、ユウに向かって飛ばす。
 飛行機程飛ばないけど一応ユウの所に辿り着く。

「じゃあもう逃げなくていいんだな」
「うん。外、行く?」
「ああ。…………そういえばモヤシはどうした?」
「あ」

 忘れてた。
 ってーか、どうしたんだろうあの二人。

「デビットが追いかけたのは知ってるんだけど、その後は知らんさ」
「乱闘でもしてるんじゃねぇか?」

 …………ありうる。
 その場合絶対この花火の音なんざ聞いちゃいない。場外乱闘上等だろう。

「あいつら回収する?」
「面倒だ」

 そう言ったユウはだけど探しに行くことは異論無いのか、窓から身を起こして教室の真ん中を突っ切ってきた。
 俺も机から降りてユウの後ろに付き従う。

「あいつら、何処行ったんだろー…………」
「さぁ?」


 俺達の懸念を他所に、直ぐに二人は見つかった。
 昇降口前でマジの殴り合い。同じく校舎から出てきた他の生徒がドン引きしつつ周りを囲んでいる。

「まだやってんのかあいつら」

「上等だっ! テメェとは一度白黒付けてやろうと思ってたんだよ!」
「はっ…………僕に勝てるとでも?」

 何やってんさ。

「ちょっと持ってろ」

 呆れ半分、ドン引き半分で(俺は平和主義者さ)見ていると、隣にいたユウが自分のタスキを外して俺に預けた。

「へ? ユウ?」
「止めてくりゃいいんだろ?」
「あっ…………」

 待っ…………!

 俺が止める間もなく、ユウは二人が殴ったり蹴り合ったりしている間に飛び込んだ!

「っと」

 デビットの拳を左手の掌で、アレンの蹴りを腕で受け止めて動きを止めさせる。

「わっ!」
「神田!?」

 止められた二人の方が驚いたらしくて、殺気はパッと霧散した。
 周りからは感嘆の声が上がっている。
 それらを気にした様子もなくユウは二人に向き直った。

「何やってんだよ、終わっただろうが。お前ら注目の的になってるぞ」
「お前な…………涼しい顔して片手で止めるなよ。俺が非力みたいだろーが」
「知るか」

 …………どうやったらあんなん出来るんさ。俺だったら間違い無く二人に殴られて蹴られてる。
 そろそろユウん家の道場にでも入門させてもらおっかなー…………

「あ。ということは僕の勝ちですね!?」
「ちっくしょー! 絶対捕まえてやろうと思ったのに!!」

 諸手を上げるアレンと、地団駄踏んで悔しがるデビッド。
 ほっといたらいつまでもそうしていそうなので、

「ほら、もう行くさ。ジャスデロも待ってるんだし」
 






 花火が夜空に上がるのを、五人で顔を揃えて見上げた。

「たーまやー」
「かーぎやー」

 さっきまで喧嘩してた割にはアレンとデビットは声を合わせて何か言ってる。
 俺はユウの隣に陣取って、時折ユウの方をちらちら見てた。
 黒い眸に、花火が映って綺麗だ。

 いつかその目に俺を映して、そしてそれを間近で見てみたい…………そんな事を思った。





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