…………マジで?
ポカン、とアホ面晒すしか無い。
ユウの所の道場兼住居は、今溢れる人混みでごった返していた。
百人単位、とは言ってたけど確実にそればっかな訳がない。何百、だろう。
道路の隅や敷地内の開いてる場所には至る所に黒塗りの高級車が停まっていて、宛らヤの付く自営業の皆さんの集会みたいに見えた。
ちら、と見える誰も彼もが着物かかっちりとした黒スーツ姿。いやさすがに俺だって新年早々シャツにジーパンで来た訳じゃないけど場違い感をヒシヒシと感じる。
うわぁ帰りたい。
思わずそんな泣き言を胸の中で零しながら人の波に混ざって歩いて行くと、
「あら、」
見知った顔に出会した。
「ユウの学校の…………」
ユウの祖母さんだ。
「あ、どうも…………」
これで逃げられなくなった。
頬に手を当てて首を傾げた祖母さんに、ユウに招かれた事を伝えると相手は笑った。ばあさんだとはいえ華がある。美人の家系なんだろうか。
ユウは自分のことを父親似だっつってたけど。
「まぁ、それはそれは。じゃあ呼んでまいりましょうね」
ユウの祖母さんに連れられて家の中に入る。
家の中も人で一杯だった。至る所に長机が出されて、その上には色々合った。…………成程、これは一人二人増えたところで問題なさそうさ。
人の間をかき分けて、着いたのは大広間みたいな畳敷きの部屋。そこも一杯になっている。
祖母さんは、丁度こっちに背を向けて誰かと話していた紋付袴の誰かに声を掛けた。
「ユウ」
「はい? あ」
祖母さんに声を掛けられて振り向いたのはユウだった。…………男物の袴が実に似合う。でも俺は出来ればそれじゃなくてもっとこう…………違うのが見たい。
「来たか。好きなとこ座ってろ」
好きなところ、と言われたって人が多くて何処も空いてるようには見えない。
俺の困惑に気付いたか、ユウは直ぐ近くで座っていた誰かに声をかけた。掛けられた方は左右に別れ、丁度一人分位のスペースが出来る。
そこに座れ、と指さしてまた先程まで話していた相手との会話を再開した。…………俺の両隣になるであろう奴らは俺を興味深げな顔で見ている。援護は期待できそうもない、と思いながら俺は精一杯の笑顔でそこに座った。
隣にいた二人とは直ぐに打ち解けた。気のいい奴らで良かった。
特に右隣にいた門下生だというチャオジーは人懐っこく(大学生だという話だけどとてもそうは見えない、年下かと思った)俺は色々な話を聞いた。道場の伝統、成績、そこの誰は師範であそこの誰は門下生、だとか色々とだ。
まぁ時折「お嬢…………」と言い掛けて隣の奴に突付かれてたケド。誤魔化せてないさ。つか、誤魔化さなくて良い。そのチャオジーを突っついていた奴は俺を少し探るような目をしてた。取り敢えず気付かなかったふりをしておく。
重箱に並べられた料理や大きな鍋を有り難くそして美味しく頂いていると、何時の間にかユウが戻ってきた。
「お疲れ様です師範代!」
俺が声をかける前に数人がそう言ってユウに挨拶する。
師範代なんだ…………流石だ。
「あぁ。こっちはこっちでやってるか?」
「はい!」
「ラビ、食ったか?」
「あぁ、うん。何か一杯貰っちまったさ。大丈夫?」
「大丈夫だろ、モヤシ並みに食うわけじゃあるまいし」
「アレンだったらこの机の上のもの全部食っちまうって」
そして勿論それだけでは終わらず、他の机まで遠征する筈さ。
笑えねぇな、と呟いたユウは俺の傍に座った。
「…………ん? お前、飲んでるのか?」
「あぁ、うん。まぁね」
「…………未成年」
ユウは俺が持つビール入りのグラスを見て溜息をつく。
「固いこと言いっこなしさぁ」
「酔っ払うなよ?」
「まさか、ビールの一杯や二杯じゃ酔わないさ。何時ものメンツだと俺が一番強いんさよ?」
「…………へー」
呟いたユウは、俺とは反対の隣に座る奴の杯に熱燗を注いだ。
そいつは恐縮しながら受け取っている。
「師範代は何か飲まれますか?」
「酒じゃないものを。強くないし、これからまだ挨拶回りだ」
そう返したユウに周りが烏龍茶を差し出す。
挨拶回りで喉も乾いてたんだろう、受け取ったユウは一言お礼を言うと一気に飲み干した。白い喉が波打っていて、ドキリとする。つか、気付くだろこれ…………ユウの喉は当たり前だけど喉仏も何もない。折れそうな程細い、女の子の喉だ。
一瞬その喉に喰らい付く妄想をして、慌ててその妄想を振り払う。流石にこんな所でおっ勃てるのは嫌さ。
周囲のヤツらと話しているユウを黙って見守っていると、ヒソヒソとした話し声が聞こえてきた。
「お嬢…………にしては…………」
「大丈夫…………随分…………」
…………?
全部は聞き取れないけど、その内容が気になって振り向く。と、多分俺を見てたんだろう、そいつらはぱっ、とあらん方向を見た。
中年の二人組のおっさんだ。
「…………?」
何やら感じる不穏な気配に、首を傾げた。新年会で不穏な気配って何さ。可笑しいだろ。
「ラビ?」
「あ、ああうん、何でもないさ」
俺が振り返っていることに不思議そうな顔をしたユウにそう言って、俺も机に向かい直した。
夏が終わりそうな時期に新年会の話ってどうよ。
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