しこたま食べてしこたま飲んだ。もう何も入らない。
 宴会終盤になってもまだユウは色々な所を行ったり来たりしている。主催者側は大変さ。
 ぼへーっとしながら机の上を眺める。
 俺の隣にユウの姿は無い。…………何処行ったんだろう…………

 酔が回ってきたか、眠くなってきた。
 そのまま机に突っ伏して――――――ウトウトする。

「おや…………眠ってしまったのか?」
「かもしれん、随分飲まされていたようだ」

 誰かが俺の頭の上で話している。

「この青年がお嬢さんの婿殿候補なのか? 見たところ武道を嗜んでいるようには見えないが…………」
「さて…………師範代からは只の同級生だと聞いているがどうだろうな。何せ総領も只の同級生だと言って連れてきていた女性を妻に迎えたではないか」
「ふむ…………」

 …………頭上で展開している何やら重たい話の所為で俺の意識はすっかり覚醒していた。

「さもありなん。掟のことは此処に集まる誰しもが承知している事とは言え何処で誰がボロを出さないとも限らないのだからな。特にこのような席ではな…………」

 いやおっさん、たった今アンタがボロだしまくってんじゃねぇ?
 …………そっか、ユウのお父さんにもユウん家の掟ってあったんだ。お父さんの場合は女装? ユウの男装よりキツそーさ。大変だ…………。
 
「掟とはいえ不憫なことだ。打ち明けられるか、少なくともそれが知られても良しと思えるような相手でなければ連れてくることなど無いだろう」

 …………今俺はユウの中で何処にいるんだろう。知られても良いのか、それとも…………話してくれる気になってくれる、んだろうか。
 後二ヶ月。
 出来れば卒業までには口を割らせたい。勿論知ってるんだぞっていうアピールしたっていいんだけど、どうせなら向こうから話して欲しい。その方がきっとそれ以降の話もスムーズに進むだろう。
 俺が密やかな計画を練っている間におっさん達は「では、また」とか言って別れて行った。
 俺はユウが迎えに来てくれるまで…………と小さく息を吐いて今度こそ寝た。
 
















「ユウ」
「はい?」

 宴会も終わり頃、そろそろ帰る客も出てきている。
 協会のお偉方の見送りに出てきていた所を祖母様に呼び止められた。

「…………今日連れてきてくれた子だけれど」
「あぁ…………同級生です」

 それ以上でもそれ以下でもない。向こうからの認識だってきっとそうだ。
 俺がそう答えると、祖母様は袖で口元を抑えてふふ、と笑った。

「何か…………?」
「いいえ? そう言えば私も貴方の父親も、この家に初めて連れてきた相手と結婚したものだわと思いだしてね」
「…………は?」

 何を言い出すんだ祖母様は。
 一瞬思考回路が凍結した音がしたぞ。
 それにしても父上。…………女装して高校通ってたんだよな。
 俺は母上よりも父上に似ており、その父上は昔から自分の女顔が大層なコンプレックスだったらしく(でもそうじゃなきゃ学校でバレて肩身狭かったんじゃねぇのか?)、酔う度に俺が女で良かったと何やら呟いている。もし自分の息子が自分に似た女顔に生まれて悩んだらどうしようと思っていたらしい。何度も言われた。因みに母上は「綺麗だから大丈夫よ」とさらりと言っていた。そういえばあの人達高校時代に出会って結婚したっつってたよな…………どういうことだ。

「だから貴方もそうなるのかしらと思って」
「なりませんなりません、なりません!!」

 思い切り顔の前で手を振って全否定しておく。祖母様は「そう?」と残念そうな顔だ。

 現状ラビは俺を男だと思っている。それはそのまま突き通させてもらう。後二ヶ月のことだ。
 考えて、心臓がドキリと跳ね上がった。
 大学は九月入学予定、俺は海外へ行く。アイツと顔を合わせる事も無くなるだろう。それまでで、それきりだ。

 後、二ヶ月。

 小さく口の中で呟いた期間は驚くほど短かった。



 神田嬢は父親似。っていうか父親がまんま神田。神田母は百合属性があった。
 顔の遺伝子が妙に強い家。美人だから問題はない。






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