年始の休み明け。
 寒い中何時もどおり屋上に集まった俺達に、アレンが何やら包を渡してきた。

「はいこれお土産ですよ、有り難く食べて下さい」
「何だこれ…………岩海苔か?」

 瓶を手渡されたユウが訝しげな顔で蓋を見る。

「うわっ、マーマイト!」
「何でこんなもん…………」

 ジャスデビから悲鳴が上がる。俺もコイツの残念な味は知ってるから、苦笑するしか無かった。まぁ、体にはいいんだけどね。
 俺達の反応から大体察したとばかりにユウは溜息を吐いた。中身は食べてお愉しみ、さ。

「クリスマスからニューイヤーまではどうでした?」
「何時もどおり。全員戻ってきてよー、ったくうるせぇったらねーわ」
「デビ嬉しそうだったもんね!」
「バッ、んな訳ねぇだろっ!!」

 家族の多いジャスデロの家では家族が全員世界中に散り散りとなっているため家族が一堂に会する事は珍しいという。
 そんな俺も俺以外は此処には居ない。でもだからといって家族が居る方に行った所で忙しい彼らとのんびりホリデイを楽しむことなんて出来ないだろうから別段行くつもりもなかった。つーか最後に顔合わせたの何時だっけ…………。
 ギャイギャイ言い争いを始めたジャスデロを何処か微笑ましく思いながらユウを見る。ユウの両親も年末年始に帰って来なかったらしい。期間限定だしじーさんばーさんがいるから別になんてことはないかも知れないけど、あの規模の新年会でもてなす側なのに両親が居ないのは大変だっただろう。

「あーもう! どーでもいいんだよそんなの! そんな事置いといて遊び行こうぜ!」

 これ以上つつき回したらデビットがキレかねないと判断したかジャスデロも追求の手を止めた。追求のつもりがあったかどうかは分からないけど。

「お前ら、遊びはいーけどテストは? 明後日テストだろ?」

 その名も「お年玉テスト」と名付けられたそれは毎年のことながら生徒の冷たい目を持って迎えられている。年末年始も休むな勉強しろという進学校らしい習慣だけどそのネーミングセンスはどうにかすべきさ。全くありがたくないのに「お年玉」と来たもんだから余計に苛立たせているらしい。テスト受ける奴らはご苦労様だ。
 
「あー…………」
「宜しく、ラビ」

 要は何時もどおりだ。そんな俺達をユウが冷たい目で見ている。ちょびっとばかりその視線にビビって話を変えた。

「で、でさ。遊びに行くって何処行くさ?」
「ボードとか?」
「ユウやったことある?」
「無い」

 ですよねー。

「運動神経良いから大丈夫ですよ。ボーリングだって直ぐ慣れたじゃないですか」
「そうは言ってもな…………」

 ユウは気乗りしない顔だ。基本的に余り遠出を好まない、らしい。勉強したいってのもあるだろう。
 んー、と考え込んでいるとユウが俺を見て、

「お前らと行くとナンパ目的みたいで嫌だ」

 ちょっ…………

「あー、女だけのグループよく釣れるよなぁ」

 おだまりデビット。
 …………ユウの俺のイメージってどんなんなの? やっぱあれ? ナンパ野郎? 反論も異論もできないんだけどさー…………。

「あ、それいいですね」

 そして俄然やる気になったのも居るし。

「そういうのなら俺は辞めとく」

 でしょうねー。

「前々から思ってたんですけど、神田って草食系男子とかいう奴ですか? それとも実はゲイの人?」
「潰すぞモヤシ」

 ロクでも無いアレンの発言に半目になったユウが低く唸る。
 こんな狭い所で喧嘩されても困るからさり気なくジャスデビがそれぞれに割って入った。

「まま、まーまーまー。別にいーじゃねぇか。つーかホモが金髪巨乳なんか選ぶかよ」
「そ、そうそう! 神田、ロープロープ」

 ジャスデビの顔を立てたのか面倒になったのか、二人はそれぞれ引き下がった。互いにガン付け合うことだけは忘れない。
 おっかねぇ…………。

「んー…………遊びねぇ…………」

 ナンパじゃなくて、遊べそうなの…………。そんなのあったっけ? 実に難しい。
 俺が顎に手を当てた考えてる間にユウはごそごそと参考書を取り出した。ジャスデロが一緒に覗きこみ始めたから多分大丈夫だろう。
 でも、実際何処かに遊びに行きたいとは思ってる。俺とユウは三月には卒業だ。楽しい青春のおもひでとやらを作ってみたい。俺の二年と少しは殆ど爛れた日々だったから。いや別に、それを後悔してる訳じゃないけどね。

「そいやお前は進学準備どうしたよ」

 アレンと何やらどうでもいい事を話していたデビットが思い出したように話を振ってきた。

「んー? 今学校絞ってるトコ。一応ガッコーチョーの顔立てて選んでやろうかなとは思ってるけどさ」

 コムイはそんな事は気にせず好きなように行きたい所に行けばいい、とは言ってくれるけどそもそも別にいきたいところなんて無い。

「はー、いーよなお前は。何処でも選び放題だもんなぁ」
「試験免除でウェルカムな所も多いんでしょう?」

 俺が書いた論文(実は実験とかすっ飛ばして適当に書いたのや半分以上ディックが書いたようなものも混ざってるのは秘密だ)やら特許(適当にプログラム書いたら何故か色々認められて特許を取るよう言われた)やら、俺が将来はホワイトハウスとNASAにと勧誘されている程のGift Childの従弟であることや世界的に有名な素粒子物理学者と数学者の息子な事は――――――これってホントに親の七光りってやつだ、うちの一族はこぞって頭がいいけど方向性はバラバラだった――――――大学からしてみれば十分なパスポートになるらしい。そりゃどうも、って感じさ。

「…………」

 そんなアレンとデビットの台詞にユウは大きく溜息をついて遠くを見た。
 ユウの狙いは中堅(の中のやや下位の)の私立大学。この学校で平均レベルの学力を持っていれば十分射程距離内の学校だ。――――――平均レベルの学力があれば、の話だけどね。
 …………。ユウの学校に近い所にしよーかなー…………

 そんな不純な事を考えながら、遠くを見るユウの横顔を眺めた。

 マーマイト=英国連邦で食されるビール酵母。塩味。しかし独特の匂いがする。
 Gift Child=天才児。






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