テスト明け。
ほぼ同時期に国内大学の受験組にはセンター試験があった。俺は知らなかったがセンター受験者はお年玉テストは免除されてたらしい。どうでもいい。
レベルの高い進学校だからか、留学希望者はけして少なくなく俺はそいつらと一緒に対策講義を受けていた。何一つ対策など必要のないラビは顔を出したり出さなかったりだ。
安堵や落胆の声が聞こえるようになった同時期、「卒業」という言葉も聞こえるようになってきていた。
「…………」
感傷に浸るほど此処での学校生活は長くないし、別れを惜しむ程親しくした人間など片手で数えるほどだ。
そう、どうでもいい。
どうでもいい、んだが。
「で、お前結局何処受けるんだよ」
「へへ、内っ緒〜!」
屋上。
「内緒にする意味は何ですか、教えてくれたっていいじゃないですか」
「あででででアレン引っ張るな! 腕がもげるさ!」
モヤシとデビットがラビを揺さぶる。
どうやら今日ラビは受験先…………というか進学先を決めたらしい。
俺はちらっとラビの願書的なものを見たが残念なことにそれから行先を読み取る前に没収された。というかかなり時間が掛かっても分からない自信がある。
「具体的に何処の州か位教えてくれたって…………」
「そしたらお前何するつもりさ」
「泊まり込みで遊びに行きます」
ついでに飯もよこせってか。
モヤシの台詞にデビットが、
「それは神田んとこでも良くね?」
「良い訳あるか」
「神田のところ親御さんが居るんでしょう? 面倒だから嫌です」
お前が面倒だろうかそうじゃなかろうがお断りだ!
「あ、ユウ。今日は俺の部屋来る?」
「んー…………」
見てもらいたいものは沢山ある。が、どれも本来教師に聞くべきものばかりだ。
今日はない、と首を振るとラビが若干残念そうな顔をした。気がした。
「その言い方辞めろよ、お前らホモカップルみてぇ」
「、」
反応に困って口を真横に引き結んだ。ちらりとラビの様子を伺う。
ラビは特に気にした様子もなく、
「んな訳ねーじゃん、デビットってばなーに言ってるんさぁ」
そう脳天気に返した。
…………。まぁ、分かってるが。分かってるんだが。
「ホモ云々は置いといても最近女の子の影ありませんね、ラビ」
「はは、は。まぁ、ボチボチさ」
「何だよボチボチって」
おーしーえーろー、と再びラビがモヤシとデビットに揺さぶられる。
そんな様子を他人事のように眺めながら、中身の残り少ないパックの茶を啜る。
俺の隣でコーラの空き缶を突き回すジャスデロが、
「ヒヒッ。留学の準備、どう?」
「…………6月入学だったら正直な所、間に合ってない」
俺の志望先は4学期制を採用していた為、年に四回入学出来る。卒業後一番近いのは6月だが、間に合わない。
当初の予定通り9月のつもりで準備している。
幸いな事に留学生を数多く出したこの学校は卒業後留学するまでの時間が相手も色々とバックアップしてくれるから助かる。こういう細やかな所までサポートがあるのも私立のいいところだろう。まぁそういう事もあって転校したんだが。
「9月ならって感じ?」
「あぁ。っつーか、間に合わせる」
間に合いませんでした、じゃどうしようもない。
「そっか。…………でももうじき卒業だし、二人がいなくなると寂しいね…………」
「…………」
ジャスデロが呟いた何気無い一言にモヤシとデビットの動きが止まった。
その二人にラビが、
「えー、何々? お前らでも俺らがいなくなると寂しーんさ?」
「んな訳ねーだろバーカ!」
「うわラビ、今のは凄く鬱陶しいです。ぶん殴りたいレベルで」
「酷っ!? うわ、いでっ、止めろって、俺はサッカーボールじゃないさ!!」
あぁ、余計なことを言うから…………。
手で揺さぶられているだけだったのだが今は二人から蹴られている。
ぎゃあぎゃあと五月蝿く騒ぎ出すのに、ジャスデロが一言。
「…………照れ隠し?」
「「…………」」
まるで悪気のない一言だ。ラビを蹴るのを止めてこっちに来たデビットがジャスデロの両肩に手を置いた。
「…………後ろから撃つのは止めろ」
「ヒッ?」
「デビット、そいつ分かってねぇぞ」
悪気は、無いんだ。本当に。だが時折こうやってジャスデロはデビットのど真ん中な事を言う。
言われてる側のデビットは怒る訳にも行かずぐったりだ。その間もモヤシは足でラビを攻撃している。
仲よきことは何とやら。
今更知ったそんなことを呟いて、俺はラビの悲鳴を聞き流しながら茶の残りを飲み干した。