「行くのかい?」
「ええ」
夜。
黒の教団・アジア支部とやらの建物は静寂に包み込まれていた。
…………最も、部屋の前には厳重に見張りが置かれ私の待遇のそれは実質罪人と変わりはしないのだが。
彼らの意を代弁すれば、「適合者を手に入れた以上邪教徒は必要ない、早く出て行け」と言った所だろうか。
元々無い荷物を抱え、部屋を訪ねてきた相手――――――ティエドール元帥と相対する。
「…………あの子は哀しむだろうね、」
「…………」
細められた目から、視線を逸らして床を見た。
捨てられた、と思うだろう。
だがそれでもいい。
いっそ憎まれれば、それはそれで――――――憎しみもまた、生きる糧となる。
「君は此処を出て、何処へ行くんだい?」
「…………さぁ、何処へ行きましょうか」
行く当ては考えていなかった。
七神を裏切った以上、あの国に戻ることは出来ない。
…………かといって。ユウのように、黒の教団に入ることは全く考えていなかった。
私はイノセンスの適合者ではない。
何より、あの教義を、信仰とやらを強制されるのは真っ平だ。
自我の固まりきっていないあの子と違い、この身の髄まで、既に七神の教えは浸透している。
――――――守りきれは、しなかったが。
「何処かへ。…………天命尽きる、その時まで――――――旅にでも出ようかと」
「…………。」
異国を旅するのも悪くない。
七神はそもそも外へは出ない。
裏切り者を連れ戻すためにと外に人を遣しはしないだろう。
気がかりなのはバチカンの対応だが、キリスト教の教えの無い地域であればそれなりに安全だろう。
「旅の無事を祈るよ。と言っても、私が言うのも妙な話だろうけれどね」
「…………そうですね」
そもそもが見えた瞬間に切りかかられても不思議ではない間柄だ。
かつて、七神はバチカンの宣教師と使者を殺害した事がある。
…………最もその宣教師と使者は、何百もの民を殺害したが。
全てのバチカンが、カソリックが、穏健であったなら――――――こんな事にもならなかっただろうに。
「外まで送ろう。不穏な気配がする」
「ええ」
…………従弟を預けはしたが。
襲ってくるならば、返り討ちにするのは、躊躇しない。
その心算だったので、その申し出は有り難かった。
可能な限り、血を流す事は――――――本来ならば、避けたい。
「ティエドール元帥」
「ん? なんだい?」
「もしもあの子が、生きる糧に悩むのなら、お伝え下さい」
生きる糧を失い、死を望むのならば。
「悠遠なお前を、遥かな場所から見守っていよう――――――と」
「ああ…………分かったよ」
(遥かな地にて、何時か――――――)