賢者の言葉は拒まれ掻き消され、愚者の行いは世界の理を歪める。
歪な断りは悲劇と憎しみのみを産み、
そして消えない疵を遺した。
『何と言う事を、』
『あの子を実験動物にするつもりか!』
『勘違いめされるな、ティエドール元帥』
『これは必要な事なのですよ』
黒い髪は水に揺蕩い、中の幼子は硬く目を閉じたまま。
それは全てを拒んでいるようにも、或いは未だ外を知らぬ胎の中の児のようにも見える。
『<あれ>は我らの敵であるのは間違い無い』
『…………っ!』
『だがしかし、同時に我らの使徒である事も、間違い無い』
『ならば、何故!!』
『生まれ直す、のですよ』
『…………?』
『我らの敵、未開の蛮族、汚らわしき一族の血など、全て洗い流し消し去ってしまえばいい』
『聖なる力は、聖なる身に宿るべきなのだ』
『忌まわしき一族など私達は認めない』
清らな聖水をその身に、
清らな魂をその身に、
繰り返される呪詛にも似た祈り。
『…………愚かな事を、』
狂信者の群れに最早賢者の言葉は届きはしない。
「…………」
『これはいい、良いデータが取れる』
『ああ、最高の素体だ。生きている適合者のデータで此処まで詳細なものを取れたケースは史上初だろう』
『生存している適合者は直ぐにエクソシストになるからな…………。この記録は後世にも残るだろう』
それは「教義」への狂信か、「科学」への狂信か。
『…………ん?』
『なんだ、どうした?』
『いや、今、脳波が一瞬乱れた気がしてな』
『記憶の削除が必要とはいえ複雑な海馬に手を入れているんだ、乱れもするだろう。気をつけて見ていろよ』
『ああ、分った』
「…………」
コポ、
『記憶領域の初期化、全身透析終了しました』
『開錠します』
「…………」
「わ、…………女の子?」
「…………」
「キミはね、ユウってゆーんだって」
「…………知ってる」
「全部、知ってる」
(それは、歪な再誕。)