レベル2からエクソシストの存在を聞きつけて、さて狩りの時間――――――と其処を訪れたのはついさっき。
その場に近づけば近づく程感じるアクマのオイルの匂いに思わず薄く笑みが漏れた。
有象無象のレベル1を虐殺しながらこう考えているだろう、「楽勝だ」と。
そんな驕ったエクソシストを、笑いながら殺せたらそれは愉しい。
――――――けれど。
突如視界に現れた「そいつ」はアクマのオイルに身を染めながらそれでもその至純の黒のままに、そこに佇んでいた。敵意も興奮も殺意すらもなく、ただ其処に、最初から此処にいたのだと言いたげな風情で。
「…………お前、何?」
理解できない。目の前の「これ」が。
一体、これは、「何」だ?
「…………、」
エクソシスト。それは分かる。
忌々しい黒の教団の制服。黒い剣は怨敵イノセンス。
だけど、ならば、何故。
こいつは、「あの人」と同じ貌をしている――――――!?
「ノアか…………」
呟いた言葉には敵意を感じない。敵意も好意も持ち得ない、淡々とした声。
「お前、本当に…………エクソシストか?」
再度の確認に、そいつは淡く笑った。笑ったと言うよりは、口の端を吊り上げたと言うのが正解か。
「エクソシスト以外にイノセンスを使う奴がいるか」
「…………、」
チャッ、
そいつは、引っさげていた剣を鞘へと収めた。
そして踵を返して今だそこに突っ立ったままの俺に背を向ける、そのついでのように、言い放った。
「お前の盟友に逢うときが会ったなら伝えろ。『貴方の箱庭から転がり出した石は、まだ生き永らえております』――――――と」
「…………お前、」
「あの方に、そう伝えろ。見逃してやる、『快楽』。だが次は――――――俺はお前達の敵だ」
そう言えば、いなかったか。
一人、一人だけ。俺達の盟友でありながら、その子でありながら、イノセンスに呪われた子供が。
だがアレはもう十年も前の事だ。
生き永らえているなど、誰が思った? 誰が予想できた――――――!?
「――――――嘘だろ?」
呟いた言葉はあっけなく風とオイルの匂いに紛れて、そいつに届く事無く消えた。
(それが胸焦がす存在との邂逅なのだとは、まだ知らなかった)