東海に浮かぶ小さな島国。
その中の、更に隔絶された区域に「それ」はある。
三百万の民を抱するのはかつて都と呼ばれたところを中心に敷かれた大結界の中。
東西には田畑が広がり、秋には金の稲穂が風に揺れる。
南北には山々からの豊かな実りがもたらされる。
清らな水を湛える湖からは様々な水の恵みを受ける。
小さいながらも豊かなその「国」を、その友人はこう呼んだ。
――――――美しき、七神の箱庭と。
その美しき箱庭の、中心部に位置する屋敷。
部屋からは浄香が漂い、静寂を好む主人が為に仕える者達は足取り一つとっても文句の付けようもない。
四季折々の花が植えられ一年通して常に楽しめるようにと設計された見事な庭園。
清らかな水を常に湛えた大池。
まるで浄土を模したかのような、美しい館。
七神が本拠、斎の館。
周囲を七神一族の屋敷に囲まれ、さらにその外側にはお膝元と呼ばれる町がまるで守るかのように囲むその館は、代々の「七神」が居を構える場所だ。
「いらっしゃいませ」
出迎えの侍女らの丁寧な挨拶に、思わず慣れぬ事に顔を微かに歪めた。
ポロン…………
「――――――…………」
風の音に乗って聞こえて来る琴の音に、珍しいことも合ったものだと一人ごちる。
この静寂の館の内で楽を奏でるとすればそれは、
「聖上。――――――お連れ致しました」
「ご苦労。下がれ」
「はい」
一段高い御座に、琴を前にして座るそれこそは――――――
「久しいな、快楽の御子」
「――――――七神の姫帝も、御変わりなく」
――――――七神一族が主人である、その人だ。
「千年公はお元気か」
「ええ。今日も元気にアクマ作りに精を出してますよ」
「それは何より」
若くは、ない。
だがこの人には華がある。
それは持って生まれた高貴なる一族の血故か否か。
…………どの道、だ。
「本日は、お耳に入れたいことがございまして御前まで」
「わざわざ貴公がご足労とは如何様な?」
「――――――貴方の掌から逃げ出した宝玉にの行方につきまして」
その時。
いつも変わらない、表情の変化の無い彼女の頬が微かに動いた。
「それは、どちらの?」
「…………、」
その問いには答えられずに。
「『それ』は、ヴァチカン直属、黒の教団にてエクソシストに、」
「…………成程。あれか」
低くなった声に不穏な感情を覗かせて。
「生きていたか。やはり――――――目前にて消しておくべきだった」
「…………」
「ミック卿」
「はい」
「わざわざご足労頂いてのご報告――――――真に感謝申し上げる。この件については、我等が恥だ。…………千年公にはお手を煩わせることも無い様に取り計らおう」
「畏まりました」
「…………境目まで送らせよう。誰か人を、」
彼女の手を打つ音に、廊下に人の気配が濃くなった。
「時に…………」
「…………」
「あのエクソシストが…………、いえ。何でもありません。失礼を致しました」
「…………」
そうして。
彼女の友の子が去った後――――――彼女は一人呟いた。
「幼子と思って情けを掛けたのが仇となったか。…………ユウ、」
ビィ…………ン
爪で断ち切られた弦が鈍い音を立てて、弾けとんだ。
「だが次こそ過つまいぞ」
(聞けなかった あのエクソシストと貴女 同じ顔をしているのは何故か――――――などと。)