――――――ああ、また、だ。
酷くこの胸の内を乱す感情、が。
「――――――て、…………ですよ」
「そう、――――――が…………」
――――――ある、非番の日の食堂。
鍛錬を終え、時間も頃合と食事を摂りにやってきた俺は、一瞬入り口で脚が固まった。
食堂の真ん中辺りの席に陣取ったモヤシと、近くはラビと何人かの探索部隊の奴ら。
何の話をしてるのか知らねぇが、笑い声を上げている。
――――――帰って、来てたのか。
長期の任務だと、聞いていた。
出発したのは二ヶ月近く前だ。
その前夜に、直ぐ帰って来るなどとほざいていたのを思い出す。
――――――ギリッ
思わず拳を作り中に爪を握りこんだ。
何に自分がイラついているのか分からない。
別に、ウザい事を言われた訳でもされている訳でもない。
ただ、モヤシが奴らと会話している、
たったそれだけの事が、何故、
こんなにも。
こんなにも、腹立たしい?
「…………、」
自分自身を落ち着かせる為に一息つく。
食事、なんていう気分じゃなくなった。
――――――もう一度、鍛錬に出るか。
そう決めた俺は踵を返した。足音も荒々しく廊下を早足で歩く。
途中、食堂に向かうのかリナリーと出くわしたが声を掛けられる前にさっさと視界から消える事にする。
くそ、何だってんだ。
何で、あいつと出会ってから、こんなにイラつく事が増えたんだ。
自慢じゃないが気の長い方では無い。
探索部隊と諍いを起こすのは得意だし、その度にリナリーやコムイに説教されてる。
だが、この苛立ちはそんなんじゃなくて、
そんなんじゃなくて?
じゃあ、何だ?
分からない、だけど苛々する。
その上、この苛立ちは吐き気と胸の痛みを伴うから尚更――――――
「神田っ!!」
尚、更?
・ ・ ・ ・
「『嫉妬』が出来る様になっただけ、成長したのね」
「うん?」
任務明け、食堂で同じく任務帰りのアレンや、同行した探索部隊を交えた俺達の会話は、やってきたリナリーの「今其処で神田と擦れ違ったわよ」という一言で終了した。
話の中心だったアレンがその瞬間ユウを追うべく走り出したからだ。
探索部隊の奴らも仕事だとかで、その輪は一先ず解散させて、俺は今リナリーと向き合ってる。
「神田よ、神田。…………あの神田が、誰かに嫉妬。…………これを成長といわずに何と言うのかしら」
コロコロと、鈴を転がすような声音でリナリーが歌うように言った。
「――――――まーね」
ユウは、誰かを羨まない。
誰にも執着しないし物にも執着しないから(六幻を除いて、だけど)、嫉妬とか妬みとか羨みとかとは無縁な人物だ。
一見良いように見えて、その実誰に対しても何に対しても無関心なだけなのだから良い事の訳が無い。
「私ね、良かったと思うの」
それなのに、
ユウにとっての「執着できるモノ」が出来た。
ユウはアレンに執着している。――――――正しく言えば、きっと、恋を。
だから、だからこそ――――――。
「見守りがいがあるって?」
「そうね。神田ったらまだまだお子様で見てらんない時もあるし」
コクリ、と目の前のリナリーの喉が小さく鳴った。
品良く紅茶のカップをソーサーに戻した彼女は微笑む。
「大体アレ、まだ自分が『どうして』『何に』苛々してるのか分かってないのよ?」
「そうさねぇ」
早く気付けば良い。
苛立ちの対象がアレンではなくて――――――アレンの回りにいる人間達である事。
その理由が負の感情ではなくて――――――好意から産まれている事。
そうしたら、沢山からかって、沢山祝福しよう。
それが、俺達の願い。
・ ・ ・ ・
聞き慣れたガキの声に、思わず足を止めた。
この声は間違いなく今俺の苛立ちの原因であるモヤシで、
だけどこの声で間違いなく俺の吐き気も胸の痛みも、苛立ちも解けて消えていく。
「神田も帰ってきてたんですね!? 僕も今日…………」
「…………知ってる」
俺は未だ背中を向けたままなのに一方的に喋り倒すモヤシの台詞を途中で遮ってやった。
「食堂いったら五月蝿い紅白コンビがいやがったからな。目障りだから出てきた所だ」
「〜っ、相変わらず君って人は!! どうしてそう可愛げがないんですか!?」
「うるせぇ、大体お前ら見てると苛々すんだよ、その上に吐き気もするわ胸は痛むわ! 碌な事ねぇじゃねぇか!!」
俺がそう言い捨てると、モヤシはびっくりしたように目を見張ってた。うわ間抜け面。つーかガキっぽい。
あ、っていうかガキっぽいんじゃなくてガキなんだった、そういえば。最近次期元帥だどうのこうのって言われてやがったから忘れかけてたけどな!
「…………神田、今もまだ苛々します?」
「あ? 今か? 今は…………そうでもねぇ」
不思議なほどに、さっきこいつの声を聞いてから――――――
「…………そうですか」
俺が答えると、モヤシは笑った。それは嬉しそうに。
その顔に文句の一つもつけてやりたかったが、…………何故か急にそんな事はどうでもよくなって。
「…………ね、神田。僕の部屋、来ませんか?」
「…………お前の部屋汚ぇから嫌だ」
「酷っ! あ、でも大丈夫! ずっと留守だったから」
「留守だったら片付いてるってのが…………」
…………モヤシと並んで廊下を歩く。
その内、俺の中に燻っていた色んな感情は、いつの間にか綺麗さっぱり流れて消えていた――――――。
「何時の日か彼がその感情の名前を識る時に。」
<終>
満紀様への相互リンク記念お礼です が。
えーと、リクエストの内容は「アレ神で嫉妬ネタ」だった筈ですが………
アレンが素で影薄いしかもリナリーとラビが出張ってるというあれれな事 に…………。
…………満紀様、リテイク要求可ですのでっ!(逃)