前方から段々近づいてくる集団。
それに、聞き及んでいた赤毛の男を見つけて思わず口の端を軽く歪めた。
「ラビ君、今回神田さん狙いなんだって」
後ろからそっと囁きかけて来たのは同じ体育科の女子。
「そりゃ好都合だ」
愛想が良くて面倒見がいいモアは体育科の同性の中でも、リナリーと同じくらい受けがいい。
それが無下にされたという事で、普段馴染みのない今回の合コンの女子メンバーは俺達に便宜を図ってくれる。女の連帯感を甘く見ると怖いの見本
…………合コンなんかに行くような女はアホだとばかり思ってたが案外そうでもないかもしれない。どっちみち、興味はないが。
「でも、大丈夫なの神田さん。神田さんて、こういうの…………」
「心配するな、慣れてる」
背後で驚いてるのが良く分かる。
問題ない。生まれた時から、素行に問題ありのクソ親父と一緒にいたんだからな。
「お手並み拝見、かしらね」
リナリーが呟いたので、俺はそっちを向いて、笑っておいた。
「…………!」
居並ぶ女の子達のレベルは、今回やけに高い。
体育科と普通科の子両方いるみたいだけど、どちらにしてもトップクラスの子ばかりだ。
だけど、普段だったら誰を攻めるかの話し合いの段階で迷ってしまいそうな状況なのに、今日の俺の目はたった一人に最初から釘付けだった。
神田、ユウ。
成る程、他の奴らが騒いでた理由が分かった。正直、体育科じゃなくて芸能科の間違いじゃないかとすら思った。
すらっとした高身長で、モデルなんかやっててもちっとも不思議じゃない。
切れ長の涼やかな目元にハスキーまでは行かないけれど、低めで落ち着いた声。
周りの子達みたいにきゃあきゃあ騒ぐ訳でもなく、一見するとそっけない感じ。
現に、最初に正面になった奴はその冷やかな一瞥に恐れをなして、碌に話し掛ける事すら出来てなかった。
二度目の席替えで、彼女の正面になれた俺は早速、彼女に話しかけた。
「こんにちは、神田サン?」
「…………ああ」
興味の無さそうな返事。
やっぱり、何でわざわざこんなところに来たのかは分からない。もしかしたら、この中の誰かの親しい友人なのか、などと思いつつ、
「何だか意外、神田サンってこういう所来るイメージ無かったから」
「…………ふふ、」
…………おおっと。
これは…………
初めて彼女が笑ったのを見た。
…………この手の笑顔は知っている。
男を破滅させる類の奴だ。
脳内で危険信号が点滅してる。
ホントなら急ブレーキ踏んで、Uターンすべきなんだろうけど。
「学内きってのドン・ファンを見に来てみたんだ、」
隣を憚るような、小さな声で。そっと囁かれた。
危ない。分かってる。何かが危ない。知ってる。
だけどその魅惑的な存在を前に、Uターンなんてできやしない。
男なら誰でもアクセル全開で突っ込むしかないだろう?
「そうなんだ…………なら、二人きりでどう?」
「…………」
「…………ね、抜け出さない? 退屈なんでしょ?」
「…………」
得たり、と微笑む顔が、天使のようなのに、どこか悪魔にすら見えた。
「…………ね、抜け出さない? 退屈なんでしょ?」
掛かった。
開始三分でこの結果。ちょろいもんだ。まぁあちらもこちらを狙っていたなら当然の結果かもしれないが。
隣のリナリーの服の裾を小さく引いて成功を告げる。
隣の男は図々しくも人の手を掴んで(何時もだったら振り払って足蹴にしてやる所だが今日は特別だ。醜態を此処で晒すつもりは毛頭無い)素早く席を立った。
店を出る瞬間、リナリーがこっちを見る。
それに小さく親指を立てておいた。
任せておけ。
手は打ってるんだ。
「何処へ行こうか?」
知ってるか? 女の敵。
ドン・ファンは最後――――――地獄へ落ちるんだ。