昨日は散々だった…………と思わず学食で溜息ついて、項垂れた。
 店に残った奴で成功した奴等の自慢話に、思わず再度の溜息をついてしまう。
 女の子のレベルの所為か、あんまり成功率が高くなかったのがせめてもの救いだ。

 ――――――あの赤毛の男、一体ナニ?

 去り際の彼女の、意味アリゲな笑顔とか。
 男の冷やかな眼差しとか。

 恋人――――――にしちゃ、歳が離れてる。
  
「よーラビ、珍しくフられたんだって?」

 ぽん。

 軽く肩を叩かれた。
 
「…………そーいうお前はどうだったんさ」
「へへ、」

 軽く親指を立てるその仕草に思わずイラっとしながら、

「だけど途中までいい感じだったじゃん。神田ってアレだろ? どんな奴に告白されても絶対OKしないって話だし」
「そうなんさ?」
「聞いたところによると、これまで告って玉砕した奴の数、200以上らしいぜ」
「…………」

 すげぇ。それどんだけの撃墜率?
 しかも一番凄いのは、彼女なら確かに有り得るな、って思えるところだ。

「まぁ、たまにはいいじゃん。次の時には、落としやすそうな子回してやるからさ」
「…………んー。」

 頬杖をついて生返事しながら見下ろした窓の外は、体育科の棟だった。






「へぇー! 面白い顔してたでしょ?」
「ああ。鳩がなんとやらだな」

 昨日の顛末をモアに話してやると、喜んで手を叩きながら笑っていた。
 喜んでるなら何よりだ。

「ねぇ、お父さんは大丈夫だったの?」
「大丈夫の意味を計りかねるが。あの親父は俺が男と飲んでた位じゃガタガタ言わねぇよ」
「…………そう?」

 リナリーの顔には「とてもそうは見えません」とでも書いてあるかのようだ。

「付き合う男は俺の目に叶った奴じゃなきゃ許さんって言われてるけどな。下僕なら何でもいいだろ」
「…………下僕、」

 若干呆れ顔のリナリー。何だ? 俺は妙なこと言ったか?

「因みに神田、本日の放課後のご予定は?」
「ティエドールのおっさんとこでバイトしてから、ティキの奢りでモヤシと三人でメシ食いに行く」

 一ヶ月連絡するなって言われた割には昨日の内に半泣きの電話が来たからしょうがない、妥協策として提示した。
 俺はともかくモヤシがいるととんでもない金額になるからな。
 それでもいいとか言ってる辺りあいつも金持ちなんだろうか。人の台所事情なんてどうでもいいけどな。
 モヤシは誘ってやったら幸せそう声してた。あいつは腹一杯になれば何でも良さそうだが、棚からぼた餅ってのはこういう事を言うんだろう。

「…………師匠って呼んで良い?」

 モアが真面目な顔で妙なことを言った。
 何だ。

「止めた方がいいわ、無理だもの」
「…………そうね」
「??」

 何のことだ。
  と、そんな時。
 スピーカーから、音楽が流れ始めた。

「「「あ。」」」

 間もなく授業が始まる事を告げるその曲に俺達はそれぞれ顔を見合わせた。

「次授業何?」
「私は無いわ」
「私は体育論」
「…………クソ、外れだ。武道実習」

 着替えがあるの俺だけじゃねぇか!

 すぐさま立ち上がって、空いている椅子に置いてあった鞄を掴む。
 もう食器を下げとく時間もねぇ!

「悪い、下げといてくれ」
「はいはい。モアも行って良いわよ、私が片付けとくから」
「ごめんねリナリー!」

 食堂にリナリー一人残して、俺達は走り出した。







 あー、眠。もう帰るかなぁ…………

 授業のコマが空いて、暇な時間。
 この後の授業も代返頼んで、もう帰るか、なんて思ってた時。
 丁度、第一体育館の側を通った。
 中から聞こえてくる気合いの声から、ああ多分体育科の奴らだろうなと目星をつけ、空いていた扉から思わず覗き込んだ。

「…………あ、」
 
 ドキッと、した。 

 昨日の夜の、男を破滅させそうな魅惑的な眼差しとはまた違う、それ。
 きっちり結い上げられた髪が、開け放たれたままの扉から吹き込む風に微かに揺れている。
 体育館の隅で誰よりも背筋を伸ばして、真っ直ぐな目で、今試合の最中の二人を見守る、彼女。

 綺麗な目だと、ただそう思った。

「おい、ラビ」
「うぇっ!?」

 思わず見とれていると、背後から予期せぬ声が掛かって俺は飛び上がらんばかりにして振り向く。
 
「なーに覗きなんかしてんだよ、学内一のモテ男が」
「べ、別に覗くつもりじゃ…………」
「…………あー、神田かぁ。どうせ見に行くならお前もあいつ等みたいに堂々としろよ」
「?」

 言われて指さされた方を見ると、体育館の中で、とても運動するとは思えない格好の奴らがいる。男女両方だ。

「…………何あいつ等、講義中じゃなくて、」
「見物人だよ、神田が出るといつもああらしいぜ」
「…………」

 …………女の子も結構いるよな…………。
 確かにそっちのケのある子にはモテるだろう。

「だけどさ、お前…………神田は止めとけよ」
「?」
「昨日来たのだって、絶対訳アリだって。だってあいつさぁ…………」


 きゃああああっ!


「「!!」」

 話の途中に、いきなり体育館の中から黄色い声援が上がった。

「な、何?」

 慌てて友人から体育館に視線を移すと、…………神田ユウが立ち上がって、中央に向かっていた。次は彼女の番らしい。

「すっげぇ人気。アイドルかってーの」
「知らなかったさ…………」
「そりゃお前は来る者拒まず去る者追わずだからだろ」

 確かにそうだ。
 自分で言うのも何だけど、自分から告白したことは無い。みんなあっちから来るんだ。
 だったら据え膳食わねばなんとやら、だろ?


 そこから始まった余りにも圧倒的な彼女の試合に見とれているまま、俺も隣の奴も、綺麗さっぱりさっきの会話なんて忘れていた。
 だけどそこで聞いておけばよかったのかもしれない。その続きを。



『神田って、お前がこの間別れたモアちゃんの友達なんだろ? 絶対裏あるって』




 そんな事、今の俺が知る訳がなかった。





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