「…………はぁ、」

 カリカリ、カリカリ。

 ケージを中から引っかいてる音がする。目が覚めてるんだろう。
 早く帰って家の中で自由にさせてあげたいと思って、尚更帰り道を急いだ。


 パタン。


 慌しく家に帰って、ドアに鍵をかけた。ケージを開く前に家中の出口を確認してうっかり逃げられてしまった、なんてことが無いようにする。
 それから、リビングの真ん中辺りに置いて、そっとケージの口を開ける。

「…………」

 怖がるでもなく、仔猫はすぐに出てきた。
 出てきて暫く、立ち尽くしている。

「…………こんにちは、」

 俺が声を掛けると仔猫はすぐに振り向いた。
 怖くないよ、怖がらないで、と思いながら近づくと。


 バリバリバリッ!!


「…………っぎゃー!?」

 引っかかれた!!

 思わず顔を押さえてのたうち回る。
 見えてないけど、絶対今顔に格子みたいな模様がついてるだろう。

 すくっ、と立った仔猫の漆黒の目には怒りの炎が見える。

「てめぇ、このゆーかいはんめっ!」
「えっ、誘拐!? ち、ちが…………」
「うるさいだまれっ!! もんどうむよう!!」

 仔猫は甲高い声で叫ぶと、尚も俺を追撃しようとして飛び掛かってきた!

「や、やめてー!! ギブギブ!! 助けてー!!!」







「あの仔がそっくりなのは顔だけじゃなくてね、気質もなんだよ」
「ソーデスカ…………」

 夕方。
 来てもらったティエドールさんは、しみじみ言った。

「…………俺ユウにあんな事された事ないんですけど」
「それは君が赤ちゃんの頃からあの子は君を見てたから、あの子が君を庇護すべき者だとも思ってたからじゃないかな。実際君が生まれるまでは何度も君のご両親からSOSを貰ったよ」

 大暴れしてたらしいねあはははは。

 …………俺の知らない、ユウの過去だ。
 あのいつもクールだったユウにもそんな頃が…………  

「それで、あの仔はどこだい?」
「可哀想なんだけど、リビングに閉じこめてあるんさ」

 余りにも大暴れするから、リビングから逃げ出して、それからリビングに閉じこめてある。狭くはないから、窮屈ではないだろうけれど。
 可哀想何だけど、これ以上一緒にいたら俺の命が割と危ない。

「どれどれ、ユーくーん?」

 暢気な声で呼びかけながらティエドールさんがドアを開けた。

 その瞬間。


「てめぇのさしがねかくそじじいっ!! あとなまえでよぶんじゃねぇ!!」


 バリバリッ!!


「ぎゃー!!」
「か、顔が…………すげぇ、5×5マスで25になってる!!」

 どうでもいんだけどさ!

 リビングの中はそれほど荒らされてなかった。
 だけど閉じこめにした所為か、機嫌は最悪のようだ。
 ティエドールさんが顔を覆って座り込むと、次のターゲットに俺をロックオンしたようで、仔猫は俺をきっ、と睨みつけた。

「おい、あかげのくそうさぎ!! よくもおれをこんなとこにとじこめたなっ!!」

 漆黒の瞳が怒りにキラキラ輝いている。まるでブラックダイヤモンドだ。

「ち、違…………ぎゃー!!??」

 電光石火で飛び掛ってくる小さな体。振り落とすわけにも行かず抱きとめると眼前に迫り来るのは研ぎ澄まされた小さな爪。

 何度も引っかかれ噛まれ、思った。

 思った以上に、これは大変な生活になりそうだ…………と。



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