<スイートハニー>(アレン&ラビ→神田 原作設定)
世のオトシゴロの男性女性はそわそわと落ち着かなくなり、ある者は意中の相手の好みのリサーチに余念が無く、またある者は美しい花束、或いはショコラティエ入魂の技が光る、一つ一つが芸術品と称しても過言ではないショコラのチェックの真っ只中。
そんな浮ついた空気は戦争中といえどこの黒の教団本部にも例外は無しとばかりに広がっていた。
勿論例外もいたが。
「お早うございます神田チョコレート下さい」
「死ね」
「あっ、おはよーさんユウ!! チョコ頂戴チョコ!!」
「くたばれ」
花も恥じらい、鬼も十八番茶も出花の文字通りのお年頃――――――
とは言った物の、んな事は彼には関係ないのだった。
「馬鹿騒ぎしやがって…………」
忌々しげに二人を、ついでに廊下の奥、談話室の方から漏れ聞こえる騒ぎ声に舌打ちし、くるり、と踵を返した。
そこに、廊下に手を突き項垂れる、二人の男を残して。
カチカチ。
半ばの予想がついていたとはいえすげなく降られたラビとアレンの耳に届いたのは小さな機械音。
「「?」」
顔を上げると、そこでは苦笑顔で手の中のカウンターを回していたリナリー。
「二人で二十四人目と五人目よ」
「何のカウントなんですか? リナリー」
「神田に突撃して振られた人。…………まぁ、受け取ってくださいって来る人が殆どだし、二人みたいに下さいって行く人はあんまり見なかったけど」
「何処から見てたんさ!?」
貰って下さい、ではなく下さい、の割りと図々しい願いを最初から聞かれていた(しかも断られたのだ。そりゃもうあっさりと)と思うと、ちょっとばかり恥ずかしい。
アレンとラビは顔を見合わせる。
「最初から?」
「「…………」」
「あ、でもね、日付が変わると同時に来たティエドール元帥も似たような事言ってたわ!」
ポン、とリナリーは手を打つ。
「日付って…………何時からそのカウントしてるんさリナリー」
「徹夜よ」
事も無げに言い放つが…………聖母のような微笑を浮かべているリナリーには、何か可笑しくないか、などとは突っ込めなかった。
「はい、それじゃ二人にも…………私からでごめんね」
「「?」」
今だ廊下でがっくりと手を突いたままのアレンとラビの目の前にリナリーは小さな袋を置いた。
「? あ、ありがとうございます!」
嗅覚で中身を判断したアレンが早速と包みを解いて口の中に放り込んだ。その間僅か数秒だ。
「わざわざ俺達にまで、悪いさぁ」
ラビも苦笑いしながら例を述べる。
「いーえ。じゃ、私カウントの続きしなきゃいけないから行くね。…………そうだ、くれぐれも、」
「「?」」
ふと歩き始めた足を止めてリナリーは振り向いた。
「お菓子くれないなら変わりに…………とかいって襲うのは止めた方がいいわ。ハロウィンじゃないんだし、今朝からそれをやって病院送りになった人何人も居るから。病室が満員になっちゃうわ」
「「…………」」
「じゃあね」
ひらりひらりと優雅に手を振ったリナリーは、神田を追い走りだした。
その背を呆然と見送った二人は、余りのライバルの多さに今更ながらに頭を抱え、
「おいアレン、」
「何ですかラビ」
「作戦変更するさ、貰うんじゃなくて貰ってもらう方から行くさ」
「了解しました! …………でも、お菓子食べないですよね彼」
「もうこうなったら蕎麦で釣るさ…………?」
そして話題は次第にバレンタインもへったくれもないほうに流れていったのだった。
ちゃんちゃん。
<終>