<ver クランベリートラップ!>(ラビ×神田嬢 現代パラレル 神田嬢が腹黒?小悪魔女王様注意)


 2月14日。
 この日に、仮にも一応、多分きっと付き合ってる女の子から呼び出しを受けたとしたら。
 男なら誰だって思う事は、想像する用件は一個だろう。
 俺だってそうさ、きっとそれだって思ってた。
 だけど。

「よし、来たな。じゃあ早速だが手伝え」

 現実は常に無情だし、俺がお付き合い「させて戴いている」女王様…………もといユウお嬢様は、そんなにお優しい方では無かった。

「あのユウ…………これ一体…………」
「何だ、黙って手ぇ動かせ。百歩譲って喋ってもいいから手ぇ動かせ」
「…………はい…………」

 何で俺、2月14日の朝っぱらからエプロン着て彼女の家のキッチンにいるんだろー…………
 
「お前はまずそのチョコ片っ端から刻んでけ。うっかり手なんか切るなよ。お前の血なんて混ぜたらホラーだ」
「…………」
「ちなみにこれ親父とティキとモヤシと…………あとリナリーとモアにやる分だからな。最近は女同士で交換するのが流行りらしい」
「…………」

 何だか目の前が見えなくなってまいりました…………。

「モヤシは馬鹿みたいに大喰いだからな。分かったら手ぇ動かせ手。夕方までに仕上げんだよ。それ全部で5キロあるからな」
「…………はい…………」

 …………テーブルを埋める茶色の塊はそれか。

 色々と泣き言を零したいのは山々だったけど、それをやると多分隣から鉄拳、もしくは足が飛んでくるのは想像に難くない。
 …………仕方ない、大人しくお菓子作りに精出すさ…………。


 ユウのリサーチは完璧だ。
 親父さんには、酒入り。ティキには苦めの。アレンにはミルクを加えて若干甘くした奴。リナリーとモアには甘くて、それから飾りに砂糖菓子などを置いて綺麗な見た目のもの。

「女同士で交換する手作りのは料理の腕を掛けての意地の張り合いだからな」

 …………成程、確かに一番パッと見でこだわってそうなのはリナリーとモアの分だ。
 チョコを刻むのと溶かすのは俺の役目で、まぁこれも何だかやってるうちにちょっと楽しくなってきた。甘い匂いには辟易したし、これはもう暫くチョコとかはいいや…………という気分にもなったけど。
 形が上手く作れなかったものは大きなボールに片っ端から放り込まれていく。あれの行く先がちょっとだけ気になった。
 
「おい、ラビ。洗い物」
「はいはいはい! 只今参ります!」

 ちょっとヤケ気味に言うと、ユウが心底嫌そうに眉根を寄せた。

「はいは一回でいい。五月蝿い」

 …………。

 やっぱり俺はちょっとだけ、心の中で涙を拭った。

 一方ユウは俺の様子など露程も気にかけた様子は無く、最初に出来上がったという親父さん用のを白い箱に入れて、それをダークグリーンの包装紙に包んでいる所だ。

「親父さん、喜んでくれるんさ?」
「さぁ?」
「さぁ、って…………」

 意外だ。
 あの子煩悩…………とはちょっと違うか、娘を溺愛してる親父さんならきっと小躍りして…………いやでも小躍りするイメージじゃないな。小躍りしそうなのはその部下の、あの白黒コンビだ。

「甘いもん、好きじゃなさそうだし。でもやんねーと解り辛く拗ねるんだよあの馬鹿親父。愛人連中から何個も貰って毎年処理に困る癖に」
「上げなかった事あるんさ?」
「ある。で、ティキとアレンにはやったら流石に俺には当らなかったがあの二人が結構散々な目に遭ったらしいな」

 らしい…………って酷ぇ。

「その後ちょっと良いワインとかにしてみたりもしたんだがどうも反応がイマイチだったからまたチョコに戻したんだ」
「へぇー…………」

 あの怖ぇ親父さんにも可愛い(?)所が…………

「でも親父にしろあいつらにしろ、一体何百倍返しのつもりだっていうようなのホワイトデーに寄越してくるから多少気が咎めるけどな」
「え…………何百倍?」

 三倍返し、なら良く聞くけど…………

「何百だ。お前チョコの原価なんてたかが知れてんだぞ。モヤシのは量が量だから確かに結構行くけどな。ヘタすりゃ包装紙のほうが高くつく」
「然様ですか…………」
「然様だ」

 あ、なんか今夢がパリパリって言って割れた気がした…………。


 ぽすん。


「? ヒッ!」

 突然背後から膝を押され振り向くと、そこに鎮座していたのは金色に輝く目をした黒い獣。見慣れてきたとはいえ突然居られると、大変驚く。
 多分鼻先で押されたんだろうけど…………

「ユ、ユウ、六幻が、」
「うん? ああ、どうした六幻。おやつはまだだ。これはお前には食えねぇぞ。あれも食えないしな」

 ユウが声を掛けると六幻はユウの方へ歩いていく。ところで、「あれ」って、もしかして俺の事指して言った?
 これで六幻が黒猫だったらまだいいけど…………豹だもんなぁ。

「あっち行ってろ、終わったら遊んでやるから」

 大人しく六幻はその言葉に従う。そうして戴けると大変助かる。主に俺の精神衛生上、とっても。
 噛まれたりした事は無いけどでも怖いし。

「おい、お前手ぇ止めるな」
「…………はい…………」











「終わった…………」

 全部が終わった頃にはもう日がとっぷりと暮れていた。
 甘い匂いに頭がふらふらするし…………。
 
「ああ。ご苦労だったな」
「はい…………」

 玄関口でユウは尊大に俺を労う。まぁ、本当に、苦労だった。
 
「じゃー俺、帰るね…………。また明日学校で」
「おい待て」
「?」

 ドアを開けた所で呼び止められる。
 振り向くと、少しばかり不機嫌そうな顔をしたユウ。

「? 何?」
「お前手ぶらで帰るつもりか?」
「? へ?」

 あ、今間抜けっぽい声出た。


 ゴスッ!


「うぐっ…………!?」

 何か硬いもん、鳩尾に入った…………!?
 
「いらなきゃ返せ」
「…………へ? …………!」

 綺麗にラッピングされてある、

「え、…………え?」
「それ持ってとっとと返れ。そろそろ親父が帰って来る」
「ユ、ユウ…………」
「何だよ、帰れって…………」

 ヤバい。どうしよう。嬉しい。

「ユウ――――――!」
「うわっ! 飛びつくな! テメェは犬か!」
「あーもー犬でいい! 犬でいいさ!」


 ガチャ


「寄るな触るな抱きつくな! 首舐めるな! …………あ、親父。おかえり」
「え?」
「…………おい」

 暗転。

<終>