<アンフェア・チョコ>(コムイ×神田 原作設定)
任務から帰ってきたら、私室のベッドの上に、何故か黄の包装紙に赤のリボンという中々奇天烈な色の組み合わせの包みがあった。
何故こんなものが…………と一瞬考え込みかけ、それから理解する。
今日は二月十四日、聖人バレンタイン司教の記念である日。…………処刑記念日というのが中々に血生臭い話だが。
胡散臭い色の取り合わせに暫く包みを睨み、それから意を決して拾い上げた。この教団にはこの手の由来の知れないものに手を出すと大怪我を負わされるという可能性を創り出す迷惑極まりないコムイという男がいるのだから警戒するのも仕方ない。
なので、俺が、その包みに差されていたカードに記された文字を目にした瞬間速やかにそれをこの世から抹消しようとしたのも極めて普通の事だろう。
「present for 神田君v from コムイ」
その意味する所は「これは凶器、若しくは毒物・劇物の類である」という表示と同じ筈だ。
これは危険だ、危険物だ。塵も遺さずこの世から抹消しなくては!
義務感に六幻を構え、包みを正眼に睨みつける。
「…………、」
…………我ながら馬鹿馬鹿しい…………。
何で、イノセンスでコムイの製作物と張り合おうとしてるんだか…………。
自分自身に呆れて溜息をつく。
六幻の発動を解き、ベッドに腰掛けた。怪しい包みを手に取り暫く上下左右に引っくり返してみたが、少なくとも外装には怪しいところは見受けられない。
リボンを解き、包装紙を外す。爆発しねぇだろうな、と思い至り少し上半身を後ろに倒しながらだ。
中からは白い箱が出てきた。何処と無く漂い始めた、甘い匂い…………。
正体は予想が付き過ぎている。
蓋を外すと、中からは一番デカいところでは20センチはありそうな大きさの、ハート型の黒い塊…………チョコレートだった。
「…………真ん中から叩き割って返してやろうかあの野郎…………」
何面白がってこんなもん作って? 買って? やがるんだ室長の癖に…………。んな暇があるなら仕事しろ。リーバーが泣いてるぞ。
…………さて。どうするか。
謎の包みの中身が女子供が好む菓子だというのは把握したが、ではこれについての処遇を決めなければならない。
勿論俺にとっての最良の選択肢は、このまま箱に戻して部屋の隅のゴミ箱に突っ込む事だ。俺は甘い菓子は嫌いだし、そもそもこれの正体がただの菓子とは限らない。
だがしかし、幾ら俺とて「今日」の日は知っているし、その今日に贈られる物の意味も、まぁ、大体は理解している。
そして其処に、俺とコムイの奴の関係性を加味して考えれば―――――最良の選択肢は削らざるを得ない。例えそれがどんなに愚かしいとしてもだ。
大体ゴミにだして万が一コムイ、またはリナリーの目にでも触れたら…………
コムイは元より、リナリーも兄の好意を無駄にした、と言ってどんな報復作戦に出るか…………。
ぞくり、と背を這った寒気に思わず二の腕を摩った。やめるか、考えるのは。考えるだに恐ろしい。
ならば、どうするか。
…………モヤシかラビにでもくれてやるか?
…………いや、ないな。
俺が奴らに渡す? そんな所人に見られてみろ、それこそつまらん、そして気色悪い噂の元だろうが! 大体コムイから、と言って渡せば奴らだってそこまで馬鹿じゃねぇ、受け取らないだろう。
大体あいつらは食べきれない程周囲の女から渡されてる筈だしな…………。
「…………」
捨てられない。誰かに押し付けられない。
ならどうする? 部屋の隅に置きっぱなしにしておいて虫でも湧いたらそれはそれで面倒だ。
「…………」
…………此処は一つ、覚悟決めろって事か?
まぁ…………死ぬようなものは入ってないだろうが…………。
「…………」
持ち上げたデカいハート型からは甘ったるい匂いしかしない。表面だって自然に出来ただろう艶だけで、特に何かが塗布されたりしているようには見えない。
頭の中では、相変わらず警鐘が鳴り響いているが…………、
覚悟を決めて、一口。ハートの山の片方に齧りついて見た。
瞬間広がる甘ったるさに、飲み物を用意せず食べ始めた事に対し激しく後悔する。
だが、真の後悔は数十秒後に訪れたのだった。
「かっ…………は、!?」
ギィー…………
「やぁやぁ、お待たせ神田君♪」
「てっ…………め、このクソメガネっ…………!」
満面の笑みを浮べて人の部屋に無断侵入してきたコムイをベッドから睨みつける。
「ちゃんと食べてくれたんだ…………ありがとう♪」
「たった今食わなきゃ良かったと思ってんだよっ!!」
やっぱ仕込みありだったじゃねーかあのチョコ!
「ふふふ…………、」
笑うコムイのメガネの奥は細められている。
「いやー、しかしよく効くなぁ、流石僕特製」
「もうお前死ね! 今すぐ死ね!」
異様に熱い体、しかも熱を帯びて充血した一部分。わざわざ何を入れたかなど説明されなくとも理解できる!
「だぁって〜。どうせ神田君は僕にチョコなんてくれないしぃ〜? だったら…………」
ギシッ
コムイが手を突いた所為で、ベッドが軋む音を立てる。
「僕は神田君にチョコを贈る。神田君はそれを食べる。神田君を僕が食べる。よしこれで万事解決! ってね」
「何も解決してねーだろーが!! この腐れ外道! 変質者! 頭沸いてるんじゃねーか!?」
「あははは、そんな僕に惚れた君も相当煮えてるのかもねぇ」
「自惚れんなクソメガネ!」
どれだけ睨もうが奴は全く意に介した様子は無い…………畜生!
「それじゃあ、取り合えず『今日』も押し迫ってきた事だし…………イタダキマス」
「!!!」
<終>