<bad day,and…>(アレン×神田嬢 現代設定)
「…………はぁ、」
重々しく溜息を一つ。ベッドの上に投げ出しているこの体、いっそこのまま地の底まで沈んでしまえばいいのに。
部屋の反対側に鎮座しているキャビネット、正しくはその上においてあるモノを見たくなくて壁の方を向いてはいるが、さっきから意識は「アレ」にばかり向けられている。
仕方ないだろう、昨日数時間掛けて作ったものが無駄になるんだ。色々失う。やる気とか、そういう物が。
…………なんでこんな日に喧嘩したんだろうな。
切っ掛けはそう、些細な事だった。
俺が体調が優れなかった、ただそれだけ。
ただそれだけだったのに、話は何故か俺がいつも無理ばかりする、自分の体を大事にしないだのなんだのとおかしな方へと転がっていき、最終的には奴と怒鳴りあう羽目になった。その転がり落ちっぷりは、坂道で上から下に向かって小石を転がしたのにも似ている。
「…………、」
無理…………はしていない。と思う。
寝不足ではあったが。
それだって別に大したことじゃ…………ない。筈だ。
ただ、倒れて保健室送り、は大したことらしい。少なくともあのモヤシにとっては。
俺からすれば寝不足で倒れたなど中々に間抜けな話で笑い飛ばすレベルのもの、そういう感覚なのに。
血相を変えて飛び込んできた奴の目には、俺は死に掛けにでも見えたのか。
だがまぁ、全ては今更な話。俺の寝不足の直接的な原因である物も、今はまるでインテリアの一部みたいになってるしな。
何の為に此処一週間、毎晩毎晩菓子作りなんぞに精を出したのか…………。
喜んだ顔が見たかった、ただそれだけなのに。
こうも上手くいかねぇもんなのか、と思うと自然に涙が出てきて、思わず目をぎゅっと瞑って、それから手探り掛け布団を引き上げ、蓑虫みたいに包まった。
寝てやる。こんな日はもう、不貞寝に限る。
起きたら、あれの始末の方法を考えよう…………。
「ユウ、リナリーちゃんが来たわよ」
「…………ん…………?」
家人に呼ばれて目が醒める。いつの間にかしっかり寝入ってたらしい。時計を見ると時間は午後八時を少し過ぎた辺りだった。
眠たい目を擦りつつ体を起こした。二つ年下の幼馴染、リナリーの家は此処から程近い。だが約束も取り付けずに来るのは珍しい、そう思いながら階下へ降りる。
肌寒さにカーディガンを羽織り、
「リナリー、?」
「神田っ! いたの!?」
「…………?」
どういう意味だ。
俺は経った今此処にいるのに。
「何度電話しても出ないから、心配したのよ…………」
「そう、だったか?」
全く気付かなかった…………。そんなにしっかり寝てたのか? 俺。
「後で確認しとく。悪かったな。それで、何か急な用事か?」
「うん…………。神田、今出てこれる?」
「出れない事は無いが、何処へ?」
「公園」
「公園って…………あそこか?」
家から程近い公園を思い浮かべつつ聞くとリナリーは頷いた。
「何でまた、この寒い中…………」
「待ってるの」
「? …………、!」
主語を省いた説明に一瞬考え込み、次に顔を跳ね上げた。
「想像通りよ」
その後のことは実は余り覚えてない。
突然走り出して部屋に戻った俺を、家人が奇妙なものを見る目で見てただろう事が最後に覚えていた事だ。
片手に包みを抱えて、このクソ寒い中上着も持たずに駆け出した。
会ったらとりあえず殴ってやろうか、怒鳴ってやろうか、それとも目の前で泣いてみようか。
とりあえず全部だな、全部。
首を洗って待ってやがれ!! ばかモヤシ!
方向性違いの決意を固めて、俺は冬の寒空の下公園に向かってひた走った。
<終>