<ver after days>(ラビ&アレン&ティキ&クロス×神田 パラレル)


 本日、2月14日。
 俺とアレンは揃って、リビングのソファーに座って雑誌を読んでたユウの目の前で、笑顔を浮かべて見せた。

「「ねぇ」」
「ユウ」「神田」
「「今日何の日か知ってる?」「知ってます?」

 俺達の問いに、面倒臭そうに雑誌から目を離したユウは右の眉根を跳ね上げて答えた。

「…………フランス革命戦争。サン・ビセンテ岬の海戦」
「「…………は?」」
「1796年、イギリス及びポルトガルに対してスペインが宣戦布告しその翌年に起こったイギリス海軍とスペイン海軍が激突した海戦だ。ちなみにイギリス軍の勝利で終わってる」
「「…………」」

 思わぬ言葉にアレンと俺は暫しの間顔を見合わせ、

「ユ、ユウから知性の光を感じる――――――!?」
「…………おい、どういう意味だそれ」
「凄いです神田! 言ってる意味は全然分かりませんけど!! …………因みに本当にあったことなんですか? ラビ」
「あー、うん。イギリス海軍が戦艦の数でも人数でも圧倒的に勝ってたスペインを下したって奴ね。確かにあったけど」
「へー、ところで最初フランス革命戦争って言ってましたよね? 何でフランス革命戦争なのにイギリスとかスペインの話になってるんですか?」
「…………、うんまぁいいじゃん? そこはもう」

 最初から話したら世界史全部解説する事になりそうさ…………。

「っていうか! それ違う! いや違くないけど違う!」
「じゃああれだ。グラハム・ベルが電話の特許取った日」
「は? グラハム・ベルって誰ですかラビ」
「何で一々俺に聞くんさアレン…………。アレクサンダー・グラハム・ベルね。電話発明した人。あとへレン・ケラーに家庭教師のアン・サヴァリンを紹介した人」
「…………聞いた事はある人ですね」

 …………アレン…………。

 俺は思わず弟の残念な脳みそに心の中で涙を拭っておいた。

「いやそれもそうだけど! 間違ってないけど! それより他にもっと重要なのあるさ!? ってかわざとやってるでしょユウ!」
「たりめーだろ、何の為に丸暗記したと思ってんだ」

 あ、やっぱわざとだったんだ…………

「そんな事の為にわざわざ貴重な脳の容量使わないで! 試験近いんだし!!」
「そうですよー! 普通に知ってるでしょう!? バレンタインって!! ギブミーチョコレート!」

 ぱらり。

 ユウが俺達から視線を外して雑誌に戻す。

「ねぇからな」
「え」「え」
「「えええええ!? 何でー!?」」

 俺とアレンはバッ! とユウの膝に取りすがる。

「ぼ、僕達何かしましたか!? 最近はそんなに神田に無理強いしてませんよね!?」
「無理強いの自覚はあったのかお前ら」
「え? ええ?! ほ、本当に俺達何かしたさ!? あっ…………まさか他に誰か気になる奴が…………」
「いねーよ馬鹿。んな奴出来た暁にはお前らが抹殺しに行くんだろうが」
「じゃ、じゃあ何で!?」
「…………。お前ら、女が犇いてる菓子売り場に俺に行けってか?」
「いいじゃないですか! 神田なら何の違和感も…………」
「あ? 何だとモヤシ?」


 ゴスッ!


 ユウの容赦ない踵落としがアレンの頭にヒットした。
 でもまぁ、今のはアレンが悪い。うん。気持ちは分かるけど。

「…………。」

 ユウが半目でこっちを睨む。すいませんすいませんすいません!!

「ともかくねぇからな。大体お前らどうせ学校で沢山貰ってきてんだろ。それ以上欲しいとか言うな糖尿病候補共」
「「う、うわーん!!」」

 ユウのつれなさ過ぎる言葉に、俺達は二人してテーブルに突っ伏して泣いた…………。








「ただいま。…………ねぇ、何あれ? アイツら何してんの?」
「おかえり。拗ねてんだ」
「拗ねて?」
「チョコ寄越せとか言うからやらねぇっつったらあの様だ」

 …………成程ねぇ。

 帰って来て最初に目にしたのは、リビングのソファーで丸くなってめそめそ泣いてるラビとアレンの姿。神田の夕飯作りも手伝わず何やってんだ…………と思ったら、そういう事か。

「…………お前までごちゃごちゃ抜かさねぇだろうな」
「言わないよ。だってチョコレート売り場女の子ばっかじゃん。普通の時ならともかくあれは男は入りずらいでしょ」

 俺がそういうと、神田はほっとした顔をした。

「全くだ」

 まぁ俺はそういうの気にならない人種だけど。
 神田はそういうところに非常に敏感だし、パッと見女な外見だって言及されればまだ傷付くオトシゴロだ。諦めがつくのはあと数年経ってからだろうし。特に夜の時に女側に回る所為かジェンダーアイデンティティが揺らぎやすそうだし、そんな状態でそんな女の子ばっかりの所に言った挙句周囲になんの違和感も無く受け入れられたら――――――ショックだろう。

「それにお兄さん大学で一杯貰ったしー。妬ける? 大丈夫だよ心配しなくても。俺神田一筋だから」

 後ろから抱き締めつつ言うと、神田は鼻で笑った。

「ハッ、何言ってんだ」

 そう言ってから指で左側を指す。
 そちらに視線をやるとそこにあるのは冷蔵庫。…………の隣にある、白いデカイ袋。その口のギリギリまで何かが入っている。

「何あれ…………あ、」

 分かった。

「チョコ、貰ったの?」
「大学で。あと、高校の後輩から郵送で来たのもあるけどな。モヤシの間食に丁度いいだろ」

 あいつ糖尿とか虫歯にならなきゃいいけどな、と神田は言う。
 …………そりゃ、捨てるよりは大分良いけどさ…………バレンタインのチョコ、人に食べさすなよ…………。

 そんな俺の心中を読んだか神田が腕の中から睨みつけてきた。

「俺は甘いもん嫌いなんだからしょうがねぇだろ」
「そりゃ、まぁね」

 食べて欲しいなら相手の好みくらいリサーチするべきだ。神田なら煎餅とかが妥当だろう。

「ところでさ。それはくれてやるの?」
「…………今日の食後だ」

 細かく刻まれてる「それ」に俺は思わず小さく笑う。

「でも気付く? あいつら馬鹿だから」
「お前に馬鹿呼ばわりされんのは、ラビは心外だろ」
「うわ酷。二重に酷。」

 色んな意味で俺とアレンに酷い。

「でも黙ってろよ。あいつら五月蝿ぇから」
「はいはい…………。あ、そうだ。所でさ、あのアレンのおやつ袋に俺が貰ってきたの入れてもいい?」
「…………お前も結局食わねぇんじゃねぇか」








「戻った」
「おかえりなさい。…………わ、」

 居間に姿を現した父上から、バラバラとした箱を幾つも投げるようにして渡されて危く取りこぼしかける。

「何ですかこれ」
「アレンにでも与えとけ。甘いもんはいらん」
「…………ああ、」

 これもチョコかよ…………。誰に貰ったんだ? 会社の奴なのか?
 しかし、俺やティキが貰ってきたのより大分高そうな奴だなこれ。まぁ金持ち私立であるあの学校の奴らから貰うものは大体やたら高そうだから、モヤシ辺りが貰ってきてたのもかなり高そうだが。俺の所にきた郵送のもそうだったしな。

「どうせなら酒でも送ってくればいいもんを…………」

 …………無茶苦茶言ってるな…………。
 でもまぁ冷蔵庫には冷えたワインもある事だし、丁度いいか…………。

 早速モヤシの間食袋に入れておこうと台所に踵を返すと、リビングからは「何ウゼェ顔してんだ」という父上の声が聞こえてきた。…………ったくあいつら何時まで拗ねてんだ。


 ピー…………


「、」

 オーブンが仕上がりの音を鳴らした。
 早く出して冷まさないと食べるまでに冷えない。中途半端に生温きゃ美味くもないだろう。そもそも美味いか知らんが。味見してねぇし。
 
 他の物は出来てるし…………飯にするか。










「「ううう…………」」
「泣くのはいいけど片付けの手伝いしようよ。いい加減にしないと神田にどやされるぜ?」
「「ううー…………」」
「…………おいティキ。このうぜぇのは一体何だ」
「神田からチョコ貰えなくて拗ねてんの」
「…………アホくせぇ」

 呆れた様に師匠が欠伸混じりに言う。

「だって! 好きな人からはチョコ欲しいでしょう!?」
「いらん。酒寄越せ」
「あーもう! これだからアル中は!!」
「何か言ったか」


 ごり。


 額に何か硬い筒みたいなのが押し付けられる。それが何なのかは確認するまでもないのですぐさま大人しく白旗を揚げた。

「ごめんなさい…………」
「しかしさー。そんなにチョコチョコ言わなくてもいいじゃん。大体お前さん達だってチョコは一杯貰ったでしょ?」
「あれ全部と交換でもいいしチ○ルチョコでもいいから神田からのが欲しいです…………」

 そしたら食べないで、ずっと飾っておくんだ。

「…………はー…………。ったくこのオトート達は…………」

 ティキが僕達を見てやれやれ、って溜息を吐いた。
 僕にしてみれば師匠とティキの方が不思議だ。何でそんなに、どうでもよさそうな顔が出来るんだろう。

「口止めされてるけどまぁしょうがないよね…………。あのさー、今日のデザート何だった?」
「?」
「プリン…………」

 バケツくらいの大きさの、プリン。

「うん、何プリン?」
「何って、ショコラ味の…………………………………………あ、」
「あ………………………………」

 言ってからラビと顔を見合わせる。

「はいはい。そういう事ね。理解した?」

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

「あ! テメェ黙ってろっつっただろティキ!」

 神田がキッチンから顔を出して怒鳴る。

「神田ー!!」「ユウー!!」

 僕はラビと一緒に神田に向かって駆け出した!
 神田に飛びついて抱きついて、もみくちゃにする。

「う、わ! 止めろ馬鹿!!! このっ…………ドアホ!」
「わーん! ユウ好き好き大好き!」
「愛してますー!」
「五月蝿ぇ! 知ってるから黙れ!!」









「ところでさ、何で言っちゃいけなかったの?」
「…………バレンタインにチョコやるとホワイトデーに何か返されんだろ?」
「うんまぁ、そうだね」
「お前らホワイトデーに引っ掛けてどうせいかがわしい事しようとすんだろ…………。絶対嫌だ」
「…………成程。バレてた訳か」
「全くだね」
「あ〜」
「そりゃ、まぁ、ねぇ? やるよね? 常識的に考えて」
「!?」






<終>