薄暗い話。
注意。
彼女は俺が部屋に入ってもこっちを見ることは無かった。
ただ、ベッドの中で、ぼーっと外を見ていた。
「ユウ、こんちわ。元気?」
「…………」
「今日は花持ってきたんさ、薔薇って好き?」
「…………」
「ユウ、」
「…………もう来るなって、何度言えば分かるんだお前は」
溜息混じりのユウの言葉。
拒絶の言葉すら、聞けるようになったのは最近だった。
一目惚れ、だ。
何時もこの部屋から外を見下ろしていた彼女に、一目惚れをして。彼女が誰か知るまでに一月、話しかけられるようになるまでは半年。
それから、部屋に入れるようになるまでは一年掛かった。
俺と同い年のユウは18歳の時からずっと入院しているという。もう3年もたった一人で、此処にいた。
「…………来週、手術だって?」
「…………」
俺が訊くと、ユウは溜息を吐いてベッドのシーツでの上で手を組んだ。祈りにも似たポーズが、けれどそんな思いは一欠片も籠められていないのは知っている。
「いい加減にして欲しい。どうせもう治りはしないんだ。ただ傷跡増やすだけだろう」
「ユウ、そんな事言っちゃ駄目さ。先生達だって、一生懸命…………」
「じゃあ何で俺は段々動けなくなってるんだ?」
「…………」
ユウは18歳の時、交通事故に遭った。
それは歩いていたユウに10トントラックが突っ込んで来た事故で、彼女が負った傷は「生きていることが奇跡」そう評される程だった。
事故は、彼女から多くの物を奪った。
下半身不随になった彼女は学校を辞めざるを得なかったし、親が傍に居続けられない仕事だったから此処で入院するしかなかった。手術に手術を重ね、けれどそれはどれも成果を得ることは出来ず、事故当初はそれ程ダメージの無かったはずの上半身も徐々に動かなくなってきている。
『何れは寝たきりになるかもしれない』
看護師の誰かが、そう言っていた。
それは多分、ユウ自身が誰よりも解っている。
「…………俺の望みを叶える気がないなら、もう来るなって。そう言ったよな」
「ユウ」
ユウの望み。俺に望んだ事。
それは、
「あぁ…………何時までこんな状態で生き延びなきゃならねぇんだか」
それは、最早自分で死ぬことが叶わない彼女を俺が殺すこと。
俺は彼女のその望みを叶える事は出来ない。
でも、もしも。
もっと別の望みを叶えることが出来たなら――――――
「…………」
電柱の影から二階の一室だけ電気が点いている部屋を見上げる。
今の時間は夜の11時。ユウはそろそろ寝る時間だろう。
近くにあったコンビニで買ってきたパンを齧りながら、それが消えるのを見守る。
「明日は。…………ユウに見つからないよう隠れていかないと」
四回前、隠れないで今日のように声をかけたら本当に警察を呼ばれた。
俺が警察に拘留されてる間に、ユウは――――――…………
「…………もうあんなの、見たくないんさ」
十一回目は、もう始まっていた。
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