「「…………」」
警察署から解放された俺達は近くの公園にいた。
警察の事情聴取の時に、変質者は「通りがかりだ」と言っていた。嘘つけ、とは思ったけど流石に命の恩人(?)を犯罪者にするのもどうかと思い、口を閉じておいた。
事故の原因は運転手の居眠りで、薬を飲んで眠くなったらしい。眠くなるなら仕事前に飲むなよ…………。
「…………」
変質者――――――いや、警察で「ラビ」って名乗ってた、きっとそれが本名だろう、「ラビ」は近くのベンチに腰掛けた。黙って、穏やかな目で俺を見る。
そして暫く黙ったあとに、呟いた。
「やっと、守れた」
「…………、」
そうだ、こいつは最初から、
『…………ねぇ、頼むから。じゃなきゃ、これだけは聞いて。明後日の朝は、学校休んで』
まるで気付いてたみたいな…………
「…………お前、何か知って…………?」
非現実的だ。
俺の中では占い師はペテン師だし雑誌の占いコーナーなんか見るにも値しないデタラメだ。
だけど、こいつは。
「…………俺が知ってるのは、『今日』『あの場所』でユウが大怪我する事だけさ」
「!」
「それだってユウが話してくれないから探し出すの本当に大変だったんさ、もう」
「?」
「――――――、」
ラビが、頭痛を堪えるように米神に指を当てた。
「…………俺の知ってる二年後のユウは、」
「!?」
二年、後?
「怪我の所為で、生きる意味を見失って、死を望んでた」
…………は?
「だから俺は此処に来たんさ」
ユウを事故から救うということは二年前の俺からユウを奪うということ。あの日ユウが病院に入院していなければ俺はユウとは会えなかった。
それは分かってた。そしてそれでもいい、そう決めた。
「…………、」
意味が分からない、そんな顔で俺を見るユウに淡く笑ってみせた。
「信じてくれなくてもいい。――――――俺は二年後から来たんだよ」
信じられないだろう。きっと。俺自身たまに都合のいい夢を見てるだけなんじゃないか、って思う。
代償一つで何度でもやり直せる力。失った片方の瞳の対価としては十分だった。
何度も何度も失敗した。
何度も、大怪我を負って救急車に運ばれていくユウを見た。いや、見れなかったことすらあった。ただ、その場所に残ってた硝子の破片と大量の血と制服の切れ端で、予想通りの事が起こってたのは知っていた。
だけど今はユウは元気でそこに立っている。
それで十分だ。他の事なんて何も望まない。
だから、此処で「終わり」さ。
「でも、もう帰らなきゃ」
「え?」
「俺の願いは叶ったんだ。だから、行かなきゃいけないんさ」
「帰るって、何処に?」
「…………未来に。俺の現実に」
話に全くついていけない、そんな顔をしているユウにまた笑って、腕時計の針を前に進めた。
ぐにゃり、と視界が歪む。
不可思議そうなだけだったユウの表情が驚愕に染まり、慌てて駆け寄ってきた。――――――俺の腕は透け始めている。
「お、前っ!」
形を失った腕ではもう飛びついてきたユウには触れないけれど。
そう言えば、無傷な制服姿は随分と似合ってて可愛いんだ、と、本人に聞かれたら唖然されるだろう事を思いつつ。
「…………ユウ、もし出来れば…………何時か、此処の俺とも会って欲しいさ」
その時は俺達とは違う出会い方をするだろう。
どういう関係になるかは分からない。
だけど、どうか幸せに。
「――――――じゃあね、バイバイ」
そして視界はホワイト・アウト。
「…………」
…………消えた…………。
どういう事だ、俺の頭がオカシイのか。それとも実はやっぱりあの瞬間俺は死んだのか。
「…………二年…………」
結局何も分からない。
聞きたいことは会ったのに、肝心のラビが何処かに行きやがった。
言う事を素直に聞いたなら、「二年後」に帰った? のか?
「…………礼くらい、言わせてから消えろよ変質者…………」
後悔に似たものすら感じつつ、空を仰ぎ。
そして俺がやっと、それを伝える事が出来たのは、二年後の事だった。