俺の一日は――――――

「おい起きろよ! 味噌汁冷めちまうだろ!!」


 ゴンッ


「! い…………っ」

 妹からの、容赦無い鉄拳制裁から始まる…………。







 今朝の襲撃の所為か、或いは昨日の酒が残ってる所為か。
 ズキズキと痛む額を抑えながら、ダイニングのテーブルについた。
 俺と違って朝に強いから何時も朝食の用意を一手に引き受けてくれているユウの背中に、情けない声を掛ける。

「あのねユウ。何時も言ってるけど、起こすときはまず声掛けてからにしてくれない?」

 するとユウは包丁を持ったまま、呆れた顔で振り向いた。

「掛けたに決まってんだろ。でもお前が起きなかったんだ」
「…………」

 …………左様でございますか…………。

 溜息を一つ吐くと、ユウは綺麗に切り分けた出し巻き卵を持ってきて椅子に腰掛けた。
 それを中央において、手を合わせる。

「「いただきます」」

 卵に箸をつけながら、ぼんやりと正面のユウの顔を見る。やや俯き気味でお味噌汁を飲むユウの目元には長い睫毛が影を作っている。
 ――――――高校に入ってから、一段と綺麗になった。
 ユウが通う学校は俺の通う大学の付属高校なんだけど、大学の方でもユウは有名だ。校内一の美少女として。そのうちそれは校内一の美女になるだろう。ミスコンなんかには絶対出させないけど。
 兄としては、気が気じゃない。純粋に想うならまだしも一発お願いしたいだとかの邪な願いを持つ奴が多いから。(純粋だったとしても俺は絶対に許さないけど)
 ユウに群がる野郎共を想像して、朝だというのに内心苛々しながら顔では平静を装う。
 暫く無言で食べ進めていると、橋を置いたユウが切り出してきた。

「なぁ、ラビ」
「うん?」
「エミリアにカラオケに誘われたんだけど…………」
「いつ? 何処で? 誰と?」
「明日の夜。駅前のカラオケ。誰かは良く知らないけど他校の」
「はい却下」
「…………」

 最後まで聞かずに切り捨てるとユウが黙り込む。

「どうせ、『他校の男』でしょ? 許しません。エミリアに伝えといて、人に男紹介する余裕があるなら自分で彼氏作りなさいって」
「お前、それキツいぞ」

 ユウが苦笑する。
 別に行きたかった訳じゃないらしく、俺が却下したこと自体には何の抗議もなかった。まぁユウは音楽苦手だし好き好んでカラオケなんか行こうとはしないだろう。

「…………でも。別にいいけど、何か不公平だ」
「? 何が?」
「お前は夜遊びする癖に俺は駄目なのかよ」

 ぷう、と可愛らしく頬を膨らませて上目遣いに俺を睨む。

「昨日の? 怒ってる?」
「別に怒っちゃねーけど」

 結構飲んで、酔って帰ってきた。
 しかもユウには伝えてないけど合コンだったし。いや俺も別に興味ないんだけど連続で断りまくってたら流石にヤバかったからなぁ…………。
 だけどユウのご機嫌損ねてまで行くようなもんじゃない。

「頼まれたから行ったけど、別に俺も行きたくないし、ユウが不愉快だったり不公平だって思うなら二度と行かないさ」
「別にそこまでしなくてもいい。でもお前、俺が働き出して会社で飲み会とかになっても止めるのか?」
「止めないよ? 止めないけど、迎えには行くさね」
「…………」

 ユウは小さく肩を竦めて、またお味噌汁のお椀を持ち上げた。

「今日は俺、五限までだから校門まで迎えに行くから」

 俺がそう言うと、ユウはお椀を持ち上げかけたその格好のままで思い切り眉根を寄せた。

「来なくていい…………。大学部の方まで俺が行く」
「だーめ。変な男に絡まれたらどーすんの」
「知らねぇよ。つーかお前が来るとクラスの女子が、キャーキャー煩ぇんだよ…………」
「あはは」
「つかお前本当に過保護過ぎ。知ってるか? そういうの世間一般的にはシスコンっつーんだぞ」
「知ってるよ。でもそんなの関係無いさ。俺には父さん達の代わりにユウを任せられるような男が現れるまではユウを守るんだから」

 …………だけど、まぁ。
 きっと、 俺の可愛い妹を任せてやってもいいなんて思えるような奴なんて、永遠に現れないだろうけど。




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