「おはよう、二人とも」
「おはよう、リナリー」
「おはよーさーん」
家から出るとそこには既にリナリーが待っていた。
ユウと同じ赤いチェックのプリーツスカートに紺色のブレザーを着た、四件向こうの家に住むリナリーは小さな頃、ユウが此処に来て以来の知り合いだ。
彼女もまたユウと同じ、俺が通う大学の付属高校にいる為毎日こうして肩を並べて学校に向かう。それはリナリーの兄コムイの希望だ。曰く、可愛い可愛い可愛い(以下略)妹リナリーに、通学途中に何かあったらと思うととてもじゃないが仕事に身が入らないから…………そう泣きつかれて俺は毎日二人を連れて学校へ向かう。(そんなコムイは大学教授、しかも俺のゼミ担当だったりする。教職員の出勤時間は早いからしょうがない)
確かにリナリーも可愛いし(ユウほどじゃないけど)コムイの気持ちは妹を持つ兄としては十分理解出来る。それに俺がどうしてもの用事で一日中家を開ける時はユウを見て貰ってるし。
リナリーとコムイの所も早くに両親を亡くしたから、俺達には色々と共通点が多い
話し、笑いながら歩く二人を横目に見ながら車道側に立ち、俺は二人のお姫様を学校へと護衛する役目に徹した。
「…………だからラビ、いいだろ?」
「え? 何? ごめん聞いてなかった」
高校の校門。
その手前でユウにワイシャツを引っ張られ、振り向く。
「だから、リナリーも今日コムイに用があって大学部の方行くんだと。一緒に行くから、それならそっち行ってもいいだろ?」
「…………んー、」
あんまり良くない。
俺はユウを大学部のヤツらの目に触れさせたくない訳だから。
しかし此処で駄目だといえばリナリーは大学部に一人で来ざるを得ない訳であって、それはコムイだって嬉しくないだろう。
「…………分かった。二人でならいいけど、こっちに来たら直ぐに電話して?」
「分かった」
俺が折れるとユウは少し微笑んで、それからリナリーと一緒に校門をくぐって行く。
二人が昇降口に消えるまで見送ってから、俺も大学部の校舎の方へ向かった。
「おはよう神田! どうだった?」
「駄目だとさ」
教室。席に着くなり俺のところへ飛んできたエミリアに答えると、エミリアはがっくりと肩を落とした。
「…………まぁ、予想はしてたけどね…………」
「リナリーも駄目なんだろ?」
コムイが許すわけがない。そして、ラビも。
「そうなのよ。ああ、花形二人が来ないなんて…………」
何やら悲痛な様子だが俺には良く事情は分からない。
エミリアは何だか知らないが、遣り手婆のような事をしているらしい。合コンの面子集めだとか、互いに気になってる奴らをくっ付けたりだとか。
その手腕は中々の物らしく、今や他の学年のみならず他校からまでも声が掛かるらしい。多分今回のカラオケもその辺りからの依頼なんだろう。
「全くもう! 何時までも妹離れ出来ないお兄さんね!」
「うちのはシスコンだからな」
リナリーのところもな。
「ラビ先輩って顔良いし運動神経もいいし、面倒見も良くて温厚で面白い、しかも学年主席で将来高収入ほぼ確定って、人柄だけなら超優良物件なのに」
エミリアの言葉に、内心だけで頷く。
「…………なのにどうして重度のシスコンなのかしら…………本当に残念だわ残念なイケメンだわ」
「それは本人に聞け」
俺の保護者を兼ねる兄、ラビは妹というフィルター無しでも世間の女から好かれるタイプだろう。何処をとっても非の打ち所が無い。…………シスコンだという一点を除いては。
昔は何処の兄もあんなもんだと思ってたが(何せ俺の幼馴染、リナリーのところだって兄のコムイは「ああ」だ)どうやら世間一般的の「普通」とは大分違うらしい。
度を過ぎて過保護なのは俺達は親がいないからかもしれないが。
「まぁいいわ。諦めるから。…………あ、ところで神田」
「?」
「一年のアレン・ウォーカー君って知ってる?」
「ウォーター? 知らねぇ、そんな奴」
「…………そう」
「?」
「ううん、何でも無いわ」
その時、予鈴が鳴った。
ニコッと笑ったエミリアはスカートを翻して自分の机へと戻っていき、俺は出したままにしていた鞄を仕舞った。
午後。
五限目の講義に出た俺は適当にノートを取っていた。
単位は既に卒業に必要な分取れてるし、この講義は俺の専攻とは全く関係ない。取っているのはある意味で名物教授がやる、結構面白い講義だからだ。
判定が鬼のように厳しい事でも有名で昨年のこの教授の授業では、優判定を取れたのは俺一人、良はゼロで可が三割、残りは全て不可で単位不認定という始末。
専攻がこういう系統で、単位取得が必須な奴らには気の毒な話だ。
俺はどうでもいいので(寝てても優を取れる自信はあった)、適当にペン回しをしながら話を聞く。
と、だ。
ビーッ、ビーッ、と鈍い振動音がした。
…………メール? ユウかな?
講義終了まではあと十五分位あるけど…………
時計を見ながらメールフォルダを開く。
『お疲れ様です』
そこには、そんなタイトルで始まる新着メールが一件。
差出人は、ゼミの後輩だ。
何だろう、と開いて、
そして次の瞬間俺は勢い良く立ち上がった!
ガタンッ!
大きく響いた音に、教授のみならず講義室の全員の視線が向かってくるのを感じたけど今の俺にはそんな事どうでもいい!
ノートやテキストを全て乱暴に鞄に放り込み、脇目も振らずに階段を駆け上り、ドアから飛び出して外へ向かった。
「…………なんだあいつは…………」
…………その講義を担当していた教授は、うんざりと溜息を吐きながら、顔を覆う仮面を抑えた。
『ラビ先輩、お疲れ様です。
さっき、東門の近くで妹さん達が声かけられてましたよ。大丈夫ですか?』
リクエスト小説ページへ
小説頁へ