「お、ラビ妹?」
「…………あ」

 大学部校舎。
 ラビを探しに来た俺は、声を掛けてきた男に気付いた。
 この間、ラビが何だか知らんが絡んだ奴だ。

「え、と」
「ラビの事、捜しに来たの?」
「…………」

 小さく頷いて答える。

「あいつんトコ、今日実習だからこの時間と次の時間学外に出てるぜ?」
「…………え」

 そう、なのか…………?

 俺のクラスは五限と六限の授業担当の教師が突然の休みで、休講になった。だから今日は本当はラビが俺を迎えに高等部に来る筈だったが、逆に俺が迎えに来た(リナリーには止めとけと言われたが別に問題はないだろうと踏んでいた)、んだが…………
 呼べばすぐ来るだろうと踏んでたが学内に居ないなら仕方ない。
 …………戻るか? アイツ、大学部にいるとうるせぇし。

「お嬢さん、ラビが戻ってくるまで俺とイイコトしない?」
「しない」

 反射的に断ると目の前の奴が少し驚いた顔をした。

「ラビが五月蝿いからな」
「あー…………」

 俺の言葉に目の前の男(名前なんだっけか? 俺はラビみたいに頭良くねぇから一度じゃ覚えられないし、ラビはこいつの事何とか頭って呼んでた気がするけどそれ本名じゃねぇよな絶対)は生ぬるーく笑った。

「有名だよなアイツのシスコンって…………面倒くならないの? ラビ妹」
「別に…………兄妹になった頃からあんなんだし」
「…………兄妹に「なった」?」

 ん? と不思議そうな顔をした男に頷きつつ、

「親が二人共再婚だったんだ。俺もあいつも連れ子だったから」
「…………、…………ああー、アイツ、それでか…………」

 俺の返答は目の前の男が納得するのに十分だったらしい。

「?」
「ちょっと納得したわ、それ」

 にっこり笑った目の前の男が、

「じゃあさ。テラスでお茶しない? 人目もあるし、何もしないって」
「…………」

 まぁ…………その位なら…………
 応じて頷いた俺は、その男について大学部のテラスへ向かった。






 財布を探してたらラビの先輩だというその男、ティキは俺の分のレモネードも買ってくれた。
 金を返そうとすると、

「いいよ金は。大人しく年長者に奢られときなって」

 そう言ってグラスを渡してきた。
 そこまで言われてしまっては逆に頑なに断るのも申し訳ないような気がして、大人しく引き下がることとする。
 俺が中に沈んでいるさくらんぼをストローでつついていると、ティキは笑った。

 ティキは他愛もない話から、俺が知らない、そしてラビ自身は絶対に話さないようなラビの話をしてくれた。
 ある意味で予想通りな事が多かったが。
 曰く、合コンに滅多に来ない。来ればモテるのに誰一人にも手をつけない。
 俺の幸せは妹が幸せになる事だから、自分のそういう事には興味がないと真顔で言い放つなど――――――。

「駄目過ぎるだろ…………。本気で俺が結婚するまで結婚しねぇつもりなのか…………」
「アイツ、むしろ中坊の頃の方がお盛んだったらしいのになー」
「…………」
「大体まずアイツがアンタに結婚の許可、出すようには思えないけど」
「まぁな…………」

 アイツは時々、「俺の婿になる人間に必要最低限な条件」を並べ立てるがそれが100を越す上にどう考えてもそんなにたくさんの条件を兼ね備える人間なんか居るわけがない。
 俺は一生独身なのかもしれない。別にいいが。
 そういえば小さい頃は、俺がラビの嫁になるんだと信じて疑わなかった。
 その内に、血が繋がってなくても「兄妹」である以上無理なのだと知って、それが悲しくて泣いた気がする。

「あーあ、カワイソ。ブラコン兄貴に縛られて恋の一つや二つも自由に出来ないなんて…………こんな美少女縛り付けるなんてあいつ、極刑もんだろこれ」
「いや…………」

 そうでもない。
 何故なら俺は誰かを好きなった事なんて無い。

 だって、これまで、ラビよりいい男なんていたか?

 一人で何故か勝手に俺を気の毒な奴扱いしたティキは、暫く俺をそうして哀れんでから、俺がグラスに添えていた手に笑顔で手を重ねてきた。驚いて少し手が震えた。

「所で。俺とかどう? 一応コレでもモテる部類だよ俺」
「どう、って…………」

 それってあれか? 恋人としてって事か?
 …………無いな。無い無い…………。
 大体こいつ、ラビに殴られるんじゃねぇか?
 でも、レモネードの恩もある。あんまりそっけなくするのもアレだ。
 どうやって断れば波風立たないか、考えていたとき――――――。


 ゴンッ!!


「…………は?」

 目の前で、ティキの頭が沈んだ。沈んだというか、めり込んだ。テーブルにだ。
 その頭を押さえつけている手の先を、恐る恐る見上げる。
 そこには、いつの間に来たのか(俺には気配も何も感じなかったし、何時の前にそんなに時間が経ってたんだと心底驚いた)。にっこりと笑顔で微笑むラビがいた。が、目が笑ってない。

「ラ、ラビ、」

 既にティキは顔からテーブルにめり込んでるのに、ラビは一向に力を抜く様子が無い。ギリギリと笑顔のまま力を入れ続けている。

「それ以上やったらそいつ死ぬんじゃ…………」
「…………」

 俺には応えず、ただ笑顔でラビはギリギリと上から力をかけつづけている。

「止めてやれって、なぁ、」
「ユウ?」

 っ。

 なんか今、凄く怖かった。
 名前呼ばれただけなのに…………。

「後で話があるから」
「…………」

 …………。リナリー…………助けてくれ…………。




 ヤンデレ兄貴の本領発揮。

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