家に帰るまで、ラビは無言だった。普段うるさい位の奴だから、それだけ怒りが深いのかと思うと恐ろしい。
隣からひしひしと感じる冷気に、真剣に泣きたくなる。
こんな事になるなら、大人しくリナリーの言葉を聞き入れておけば良かった、と思うが今更過ぎるだろう。
家に帰ってきて、一言。
「先に着替えておいで」
そう言われて、逆らう事無く部屋に引っ込んだ。本当はこのままベッドの中に飛び込んで毛布を被って眠りたいが、どう考えても駄目だ。これ以上怒らせたらどうなるか分からない。こんなに怒ったラビを見たのは小学校六年の時に俺が変な男に付きまとわれて以降初めて見た。
宛ら処刑台に昇る囚人の気持ちでリビングに戻ると茶が用意されていて、片方の前にラビが座っていた。手を組んで顎を乗せて、俺を見ている。
「…………」
恐る恐る、その前に座った。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
…………沈黙が怖い。
「…………ティキに」
「、」
「何言われた?」
「何、って…………」
何って…………何だっけ。
ラビがおっかなくて、正直忘れた。そもそもそんな大した事は言われてない。と思う。
「…………」
思い出せないで困っていると、探るような深い色の目でラビが俺を覗き込んだ。
「言えないような事?」
「言えない、っていうか…………あんまり覚えてない」
正直に申告すると、それをどうとったかラビは片眉を跳ね上げた。
「あ、なんか、恋人に立候補された」
「へーぇ。それで?」
「それでって」
「ユウは、それを受け入れたの?」
…………おいおいおい目が笑ってない! 目がちっとも笑ってない!
「いや、別に…………彼氏欲しい訳じゃないし…………」
「じゃあどうして、手ぇ繋いでた?」
手を繋ぐ? …………ああ、あれか…………
「よく分かんねぇ。あっちが重ねてきた」
「…………」
ラビが目を細める。
疑ってるなコレ。
…………つか俺は、どうしてこんなに色々言われなきゃなんねーんだ。俺、何も悪い事なんざしてねぇのに。
そう考えたら、イラッとした。
何故か物凄く、イライラして、無性に悲しくなった。
ラビの探るような、疑うような目を見ているのが辛くて俯く。ぽた、ぽた、と机の上に水滴が滴り落ちた。
ガタ、と前にいたラビが立ち上がる気配がした。俺の後ろに回りこんだラビに、後ろから抱き締められる。
「…………ユウ…………。可哀想に、怖かったんさね」
「…………っ、」
「でももう大丈夫、二度とユウに触るなんて真似出来ないように、俺がシメとくから」
…………ラビ…………。
…………何かお前、根本的に間違ってる…………。
「違ぇよ…………。別にあいつが怖かったとかじゃなくて…………何か、悲しい」
「悲しい? なんで?」
「分かんねぇ…………」
何が悲しいんだ。
自分でも良く分からない。
ラビが俺の頭を撫でた。何度も何度も撫でた。
それだけで全てがどうでもいい。
どうでもいいんだ。
「例えばユウは、俺が女の子の香水付けて帰って来たらどう思う?」
「…………」
夜。メシ食ったら俺もラビも落ち着いて、普段通りになってた。
それから、久しぶりに一緒のベッドに入った。
子供の頃よりも互いにデカくなってるから、ベッドが狭い。
「あんまり…………」
気分良くはないかもな。
分かんねぇけど。
「俺も一緒。…………ユウに他のオスの匂い付けられるの嫌さ」
「手ぇ合わせると移るのか?」
「比喩的表現だよ」
?
「俺はユウだけを見てるから、ユウも俺だけを見てて? 女の子はどうでもいいけど」
「分かった」
応えて、眠くなってきたから目を閉じた。
眠りに落ちる途中、ラビが何か言った気がするけどそれは聞き取れなかった。
『ユウが欲しい物は何でもあげる。いつか『 』も俺があげるよ』
誰か「テメェのせいだよ」と突っ込んでやってください。
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