「ラビ…………」
「どしたのユウ!?」
金曜日。
学校の昇降口で待ち合わせて帰ろうとしていた俺の目に写ったのは、何時も通りの元気なユウではなく、ポロポロと大粒の涙を零しながら歩いてきたユウの姿だった。
「どうしたのかしら…………」
「分からないんさ…………」
ユウは家に帰る途中もずっと泣き続けて、家に帰ってからも部屋に篭って一人で泣いてるみたいだった。
母さんと二人、その部屋の前で困り果てて、顔を見合わせる。
ユウがあんなに泣くなんて、一体何があったんさ?
ユウはそれでも夕飯の時間になると部屋から出てきた。
目が真っ赤になってて、それを見た親父が声を無くしている。
夕飯を食べ終わるとユウはまた部屋に戻っていった。小さな嗚咽がまだ聞こえる。
「…………、」
どう、しよう。どうしたらユウは泣き止んでくれるんだろう。
っていうか、どうして、なんでユウは泣いてるんさ?
「ラビ、ユウはどうしたんだ?」
「わかんねー…………学校から帰ってくる前からずっと泣いてるんさ」
俺がユウの部屋の前でうろうろしていると親父も気になったのやって来た。
「ラビ、ユウ、お風呂だけど…………」
母さんもやってきた。中から聞こえる小さな嗚咽に眉を下げて不安そうに部屋のドアを見ている。そんな母さんの肩を親父が抱いた。
「どうしたのかしら…………誰かにいじめられたのかしら?」
「母さん、そんな奴いたら俺がブチ殺してるさ」
「ラビ、乱暴な事言うのはやめなさい」
俺は120%本気さ。
「…………俺、お風呂の中で聞いてくる」
いつも通り一緒にお風呂に入って、ユウの髪を洗った。体は互いに洗いっこする。
上からお湯を掛けて、湯船の中に向い合って座る。
ユウの目はまだ赤い。
「今日はどうしたの? 何かあった?」
柔らかく、問い詰めるみたいな感じならないように気を使いながらユウに訊いた。
顎までお湯に浸かったユウは、小さく呟いた。
「…………クラスの男子が」
よし、ソイツ殺そう。
俺は心の中でそう決意する。バットって何処にあったっけ…………
「俺は胸が小さいから、赤ん坊にご飯あげられないって言うんだ」
「え」
だってユウ、まだ子供じゃん。いや、俺だってそうだけど。
正面のユウの胸を見た。以前は本当に俺と同じように真平らだったけど、最近、ほんの少し膨らんで来てる、ような気がする。
確かにクラスの女子程はないかもしれないけど、だからって。
「ご飯あげられないと赤ん坊きっとお腹空かせて泣くし、死んじゃうかもしれねぇ…………」
そう言うとユウはまた瞳を潤ませて、泣き出してしまった。
「だ、大丈夫だよユウ。大人になったらおっきくなるさ」
つまりユウは、胸の大きさでからかわれた訳さね。うん、やっぱりそんな野郎はぶち殺そう。何処のどいつだ?
「…………ほんとか?」
「ほんとだよ。大丈夫だって」
可愛らしい俺の妹はスンスンと鼻を鳴らしながら、それでも少し泣き止んだ。
「…………」
「あ、じゃあ俺がおっきくなるように揉んであげる」
「?」
「胸って、触るとおっきくなるんだってさ」
嘘か本当かしらないけど、そう聞いたことはある。
俺が言うと、ユウはパッ、と表情を明るくした。
「うん!」
「じゃあ…………」
両手を伸ばして、正面のユウの胸に触った。…………胸、此処でいいよね? 大人の女の人みたいにはっきりとは分からないけど。
でも、掴んでみると随分固い。
「ラビ、くすぐったい…………ちょっと痛い、」
「わ! ごめんねユウ、」
痛いんだ、これ。
今度は優しく、そっと触る。…………合ってるんかな、これ…………。若干自信がない。
風呂から出たら、親父に正しい胸の触りかたを聞こう、と俺は心に決めた。
そして実際実行したところ晩酌中の親父がまるで噴水のように見事にビールを吹き出したのを見てユウが笑ったので、取り敢えずどうでも良くなった。