2013年バレンタイン 原作設定っぽい何か。





 教団中にほんのり甘い空気が漂っているのはきっと気のせいじゃないだろう。
 そこかしこで行き交う包み紙や花束。
 まぁ最も俺の恋人様は全く無関心な顔で今隣で蕎麦を啜ってるけどー…………。
 ついさっき迄向かい側に居たアレンは、カウンターすぐ近くに作られた特設ブース、ジェリーとリンク謹製ガナッシュケーキタワーに突撃していった。アレンが出てきたからには
あれのウェディングケーキと見まごうほどの立派なモノも、時期に消えて無くなるんだろう。

「あー…………すげ、もう一段無くなってる…………」
「食いたいんなら取ってこい、モヤシに全部喰われんぞ」
「いや、いーや。邪魔したらおっかないし」

 あの二人が作ったんなら味はお墨付きだろうけど。
 暫く眺めていると、厨房内に居たらしいリンクが飛び出して来てまたしてもアレンにガミガミ言っている。食べ過ぎだとか、多分そんな話だ。
 小さく笑いながら其の様子を眺めていて、ふと。

「そーいやユウは俺にチョコくんないの?」
「何でお前自分が貰えると思ってんだ」
「だって俺がユウにあげても食べないじゃん…………甘ったるいって」

 食べてくれるなら幾らでも渡すけど、結局俺が食べるんなら余り意味が無い。

「ケッ」

 下らないとばかりに鼻で笑ったユウはすっかり空になった蕎麦蒸籠の載ったお盆を持ち立ち上がった。

「ユウー?」
「坐禅してくる。邪魔すんな」

 ついてくるな、と実に連れない言葉を貰って俺はふてくされる。
 一度カウンター近くの下膳台まで行って、戻ってきたユウはふと思い出したようにコートのポケットを探った。

「…………リナリーが、お前に渡せって」

 出てきたのはダークグリーンにダークレッドリボンが掛かった、中々渋い装丁の小さな箱。去年まで貰ってた義理感の漂う小さな粒のチョコとは随分違う。

「マジで? あらまー…………こりゃお返ししっかり返さなきゃ駄目な感じ?」
「知るか。勝手にしろ」

 ユウはやっぱり興味無さそうな顔で、颯爽と食堂を後にした。









「あ、リナリー」
「ラビ、ちょうどいい処に」

 俺も食堂を後にして、ちょっと。
 ユウの所に突撃するにはまだ早いしなぁと考えながら歩いていると、前方には大袋を持ったリナリーの姿。

「はい、どうぞ」
「へ?」

 俺を見るなり袋の中に手を入れたリナリーは、俺の掌の上にいくつかの小さなチョコを載せる。

「毎年同じので悪いんだけど…………」
「え? 俺、さっき貰って…………」
「えっ?」
「えっ?」

 噛み合わないやりとりに、俺は暫くリナリーと見つめ合う。

「えーと…………さっきユウにチョコ預けて、無い?」
「神田に? …………ううん?」

 何で? と言いたげなリナリーに誤魔化し笑いを浮かべて。

「ううん、何でもない」

 …………これはもしや。

 俺はついさっき、ユウへの突撃はやめておこうと思った事なんて完全に忘れた。
 ユウが居る一角まで俺がたどり着き、そのまま勢いで押し倒すのは、これからわずか数分後の事だった。


<終></div>