※R15です※

 寝苦しさに目が覚めた。
 肌にじっとりと纏わり付くシーツが気持ち悪くて粗末な毛布を跳ね除けて起き上がる。
 埃の匂いに小さく咳き込んでから素足で床に下りた。ぎぃ、と嫌な音が立つ。同室の人間を、特に妙な所で鋭いラビを見返してみたが動きは無い。
 部屋の隅のバスルームの扉らしき物を開けるとまた嫌な音がする。建物自体がガタが来ているんだろう。
 本来ならもう少し上等な宿を取りたいところだった。懐の中には代価も十分にある。だが、この貧しい村の宿は此処だけだ。此処しかないとなれば仕方もない。

 まぁ、いい。雨風凌げるだけ上等だ。
 錆びた蛇口を捻ると冷たい水が降り注いだ。温度設定を高くすると、一瞬戸惑うように水流が弱まってから温い水が降り注ぐ。曇った鏡の中の自分は疲れたような顔をしていた。凝り固まった筋肉を解す様に肩から背中へと水を流した。

「…………神田?」

 ぎぃ、と頼りない音と共に声が。
 同室のガキの声に、思わず目を見張った。 

「起きたのか」
「僕も暑かったんです。僕も入りますね」
「なら、出るから待ってろ」
「…………僕も今入ります」
「あ?」

 慌てて引いたビニールのカーテンが揺れる。
 覗き込んで来る一対の目。

「無理だ、見りゃ分るだろ。狭いんだぞ?」
「大丈夫」

 言うなり服を脱ぎだすモヤシに慌てる。

「う、うわ待て!」
「待ちません」

 闖入者に押される格好でバスタブに男二人。

「僕にもお湯かけて下さいよ」
「…………待てと言ってるのに」
「待てません」
 
 シャワーヘッドをモヤシに向けてやる。降り注ぐ湯にぶるぶると首を振る様子はまるでイヌ科の獣のようで、思わず小さく笑った。

「…………何笑ってるんですか?」

 年頃らしく笑われることに敏感な反応を示すモヤシが、

「そんな可愛い顔して笑うと喰べちゃいますよ」

 全く可愛くない様子でそう言った。
 
「…………遠慮する」

 背中に伝う冷たい汗の感触に引き攣りながらもそう返す。
 途端怪しくなる空気に、汗も流せたところだし早く上がってしまおうと背を向けた瞬間。

「そんな遠慮なんてしなくていいですよ。僕らの間柄じゃないですか」

 普段より低いその声が、耳朶を撫でた。
 この声は良く知っている。情事の前触れ、陶酔に導く誘惑の声。
 ぞくり、と先ほどとは違うものを背に感じた。

 どんな間柄のつもりだ、このエロモヤシ。

「っ、モヤシ!」
「大きな声出していいの? ラビ起きちゃいますよ?」
 
 ちゅ、と音を立てて首筋を吸われる。抗議の声を上げると笑みを湛えた声で後ろから低く揶揄された。
 首筋から肩へと唇が移動していくにつれ、背中から腰が粟立つような感覚を覚える。
 小さく灯った火に息を吐いていた合間にモヤシは備え付けのボディーソープを手に取り、後ろから胸に触れた。敏感な箇所を強く刺激されて殺し切れない悲鳴が神田から上がる。

「気持ちいい?」
「ばっ…………やめ…………っ!」

 容赦なく責め立てるモヤシに翻弄されまいと意地を張れば張るほどモヤシの欲求を煽るのだと理解しながらも、それでもただ流される訳には行かなかった。年長の男として余りにも情けないからだ。
 けれど段々と立っていることすら危うくなってきた中、ついに目の前の鏡に手を突いてしまう。
 
「ふぁ…………っ」
「ね、神田…………気持ちいい?」

 それに答えるのは、敗北宣言のようなものだ。そんな神田の心中を知りつつ何度も問いかけるモヤシは、心底意地が悪いと思う。
 硬く目を瞑って抵抗の素振りを見せると、それまで胸を蹂躙していた掌が腹へ、それから下肢へと伸びてきた。

「…………!」

 いやだがしかし、それは余りにも、だ。
 プライバシーなんぞに対する配慮は一切無い、ベニヤ板で区切られた部屋。隣の部屋の物音、咳き込む音ですら聞こえるこの場で、そんな事を?

「君が静かにしてれば大丈夫ですよ」

 そんな事お見通しだとばかりにモヤシが囁いてくる。…………くそ!

「だから――――――ね?」

 何が、だから、だこのクソエロモヤシ!
 頭悪いのにも程があんだろ!

 
 …………一番悪いのは、悪くないと思ってる、そんな俺自身、なんだろうが。 





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