五月。
 入学してから一月。僕ら新入生も高校生活に慣れてきた。
 この月は入学してから初めての連休があり、皆それぞれ楽しんだみたいだ。僕は当然のことながら、連休中はバイトに明け暮れていたからそれどころじゃない。
 連休中にシフトを詰めて勤務していたら明けてから休みが回ってきた。店長の配慮みたいだけど、僕としてはなるべく働きたいから出来ればシフトを入れて欲しい。けれど法律の絡みがあるみたいだから仕方無い、諦めた。
 そんな事をラビに愚痴ったら、

『あぁ、マジで? じゃあ明日の帰り、ちょっと付き合うさ!』

 そう言われた。
 何だろう。何処かに行くのかな?
 詳しくは聞いてなくて、だから待ち合わせの日のその時間、校門に神田先輩が居た時は少し驚いた。

「こ、こんにちは」
「…………おう」

 腕組みしている先輩は僕をちら、と見る。

「今日は先輩も一緒に?」
「あぁ。…………あの兎、おせーな」

 …………兎?
 それってもしかしてラビの事?
 でもラビはRabbitのRabiじゃなくてLaviの筈なんだけど…………まぁいいや。先輩に意見するのは止めておこう。

「今日、何処に行くんですか?」
「何だ、聞いてねぇのか? 肉屋だ」
「に、肉屋?」
「ステーキ屋」
「あぁ…………」

 びっくりした、生肉を売ってる所に行くのかと…………
 それにしてもステーキ屋…………どうしよう、そんなにお金持ってないのに…………。
 困って考えている内に、ラビがやって来た。

「おせーよお前。自分で時間指定しやがったくせに」
「ごめんごめん、帰る直前にいきなり生徒会で呼ばれたんさ。さ、行こうぜ!」
「ちょ、ちょっと待って下さいラビ、僕今月厳しいんですけど…………」
「あー金の心配ならいらんさ、特にお前はなー」
「?」

 ラビがパタパタと手を横に振る。

「つか何で俺まで呼んだんだ?」
「だって人数増えると上限増えるんだもん」
「上限ってあれ一人でも二十枚とかだろ。一人で行っても十分過ぎんだろうが」
「いやいや、ユウはアレンの真の食欲を知らんからそんな事言えるんさ」

 上限? 二十枚? 何の話?
 首を捻っていた僕は、「行くさー」と言いながら歩いていったラビと神田先輩の後に付いていった。






 学校から三駅、徒歩五分。
 そこにあったのはカナダ風な構えのステーキ屋さんだ。

「頼もー」

 ラビがそんな事を言いながら入っていく。
 何だか本格的そうだ。いよいよどうしよう、そんな事を思いながら最後にドアを潜る。

「チャレンジコース、三人分で。あ、あとウーロン茶一つ」
「本気かよ」

 さっさと席についたラビがメニューを見ることもなくオーダーする。
 神田先輩は全く興味なさそうに頬杖をついた。

「チャレンジコースって何ですか?」
「えーとな。一枚が二百グラムのステーキで」
「…………」
「一人頭八枚以上食うとステーキ代はタダ、賞金出るんだぜ」
「!」
「つってもテーブル単位だろ? 三人だからこのテーブルだけで二十四枚食わなきゃ行けねぇんだろうが。俺は食わねぇぞ」
「相変わらず肉嫌いさねユウ…………。あ、因みに一人の上限は二十枚だからこのテーブルで六十枚迄さ。俺も二、三枚は食いたいからその分は取っといて欲しいさ。五十枚ちょっと位、お前ならイケんだろ?」
「はい!」
「いけるってお前…………五十枚で何キロだと思ってるんだよ…………」

 神田先輩は呆れたように溜息を付いて、最初に運ばれてきたウーロン茶にストローを指した。






 そんな神田先輩は、約一時間後唖然と僕を見ていた。

「嘘だろ…………」

 高々と積み上げられたステーキのお皿。
 宣言通り一枚も手を付けなかった神田先輩と、三枚食べてもういいと降りたラビ、そして僕は残りの上限五十七枚を全部食べた。

「はは、完食おめでとーアレン。11.4キロ。見事なもんさ」
「美味しかったぁ…………」

 こんなに食べれたのは久しぶりだ。

「何処に入るんだよあの量…………」
「さぁ?」
「あの…………所でもう一回できますか?」

 店員さんにそう訊くと、ブンブンと首を横に振られてしまった。残念だ。

「まだ食えるのか…………」
「さっすがー。あ、ほいよアレン」
「? 何ですか?」

 ラビが僕に三つの封筒を差し出す。

「賞金さ。食ったのは大体お前だし全部やるさ。いいよねユウ?」
「俺は何も食ってねぇ」
「え、いいんですか? でもラビだって食べてたじゃ…………」
「俺はメシ代タダになっただけで十分さ」

 ひらひらと手を振るラビは、神田先輩に時間を聞いた。
 腕時計をちら、と見た神田先輩の答えにラビは、

「んーと、学校前までの電車あと十五分さ。逃すと一時間後だし、行く?」
「あぁ」

 ラビは僕に「行くさー」と声をかけながら立ち上があった。僕も鞄を掴んで後に倣う。
 何処と無く引きつった笑顔の店員さん達に見送られて、僕らは外に出た。外の空気はまだ暖かい。

「食い過ぎた、腹が重い…………」

 数メートル歩いた辺りでラビが眉根を寄せてお腹を撫でた。と、神田先輩は呆れたように、

「三枚も食えば当たり前だろうが。馬鹿かお前?」
「ソレを言ったらアレンなんか」
「日頃の食う量が違うだろうが」
「まぁねー」

 まぁ、確かに。
 そんな取り留めない先輩達の会話を聞きつつ、駅に向かった。


 アレンの食事量にちょっと引いてる神田先輩。

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