足音荒く歩けば周囲が道を作る。
 向かう先は決まっている。

 食堂から真っ直ぐ戻ってきて、今は自室と同じフロアにある奴の部屋の近く。
 ティエドールの部屋の前には中央庁の鴉がいた。邪魔だがただ右往左往するだけで大したことはしてこないので放置する。
 中からは声がした。

『ですから、そのことでしたら中央庁でも面倒を見ますし、私個人としてもそのつもりです。ですから…………』

 中から聞こえる声はルベリエだ。巻き込んでも問題ない奴だと判断する。
 そのドアを思い切り蹴り開けると――――――

 呆気に取られた顔のルベリエとそのお供のアレンの元見張り役。それから部屋の主人の――――――

「…………。何だい、マリアン」
「テメェに話しときたいことがあってな」

 抜き身で携えたままの断罪者にか、他二人の顔が露骨に引きつる。見張りがルベリエを背に庇った。元鴉なら多少巻き込んでも死にはしないだろう。

「何であの二人の邪魔をする?」
「…………可愛い娘が何処の馬の骨ともしれない男の毒牙に掛けられそうなんだ、これが反対しない訳がないだろう!?」

 ダン、とテーブルを殴りながらティエドールが立ち上がった。
 奴の手にも楽園ノ彫刻が握られている。考えている事は同じだろう。互いに腹に据えかねている。色々とだ。

「誰が何処の馬の骨だ! テメェうちの息子に何の不満がある!?」
「全部だよ全部!! そもそもノアだわ不良の弟子だわ借金抱えてるわ女癖悪いわで何処を見たら歓迎する要素があるんだい!?」
「阿呆か、借金は俺のだ!」
「何を偉そうに言ってるんだ君は!!」

 全くだ…………と外野が呟いた。
 五月蝿ぇ黙ってろ。

「普通女の方が不束者ですがつって頭下げるもんだろうが!!」
「下げる価値もないしそれ所か渡す気になれないんだよ!! あの歳であんなに借金抱えて、ウォーカーはうちのユー君や何時か生まれてくる子供にひもじい思いをさせるつもりかい!?」
「ですから、ティエドール元帥、それでしたら…………」
「「外野は黙ってろ(なさい)!!」」
「「…………」」
「飯なんざそもそも食堂があるだろうが!!」
「そういう問題じゃないんだよ!!」

 怒鳴り合いながら近づいて来たティエドールが人の胸倉を引っ掴む。
 負けてられるか、このクソひげメガネなんぞに!

「そもそもウォーカーがユー君に言い放った暴言について、ユー君本人が許したって私は許してないよ!?」
「知るか馬鹿、売り言葉に買い言葉って知ってるか!? あぁ!?」

 ――――――互いの怒りが頂点に達した。







 次の瞬間の衝撃について後に生還したルベリエとリンクはこう語った。

「正直、何で生きてられたのか不思議で仕方ない」








「!?」
「きゃっ!!」

 突然本部全体に走った衝撃に、俺達は直ぐ様立ち上がった。ミランダとエミリアは肩を抱き合っている。

「何だ? 今のは…………」
「地震?」
「襲撃でなければよいが」

 短く言葉を交わし、もしも出撃、若しくは迎撃の命が下ったならば即座に反応できるよう、六幻に手をかける。
 数秒の後、放送が入った。コムイだ。
 随分と切迫した声で、

『クラウド元帥、ソカロ元帥、おいででしたら応答願います!』
「いるぞ。今の衝撃についてか?」

 俺のゴーレムを使ってクラウド元帥が応答する。

『はい、大変申し訳ありませんが、事件の鎮圧をお願いします』
「コムイ、事件とは?」
『元帥居住エリアで、クロス元帥とティエドール元帥が交戦中。中央庁の人間が何人か巻き込まれています。本部建物にもかなりの損傷が…………』

 その言葉を聞いて、

 クラウド元帥は溜息をつき、
 リナリーは物騒な笑みを濃くし、
 エミリアは「は?」と呟き、
 ミランダは目を丸くし、
 俺は思わず天井を仰いだ。

 …………何やってんだあのヒゲ…………。

「流石に死人は出てないだろう。…………何時かはこうなるんじゃないかと思ったが…………」

 ふぅ、と溜息を付いたクラウド元帥は肩の上のイノセンスに「行くぞ」と声を掛けた。

「クラウド元帥、お伴します」

 名乗りを上げたリナリーの黒い靴は既に発動している。

「俺も行きます」

 リナリーに遅れを取ったが俺も、と声を上げる。と、二人に首を横に振られた。

「原因の大半のお前が来たら、尚更ややこしくなる」
「神田、クロス元帥がティエドール元帥の所に居たって事は多分アレン君はティエドール元帥と戦った後だと思うわ。何処かで倒れてるんじゃないかしら」
「!」

 何時ものことだ。
 きっとまた、ボロボロになっている。

「アレン君を看病してあげて?」
「…………分かった」

 ソカロ元帥も呼ばれたことだ。(応じるかどうかは分からないが)事態に収拾をつけるには十分な戦力だろう。リナリーは結晶型の上に何気に何時の間にか臨界者になっているので十分すぎる戦力だ。

「往ってくるわ」

 にこ、と微笑んだリナリーと、クラウド元帥の後ろ姿を見送り、ミランダとエミリアには念の為、もっと人が多い所へ行くよう伝えておく。
 俺はアレンを探す旅に出た。





「全く…………男というものはどうしてこうなのか。なぁ? リナリー」
「全面的に同意します」
「分かってるとは思うが加減は無しでいいぞ」
「分かっておりますわ、クラウド元帥」








 大惨事。


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