神田嬢は物凄い勢いでアルマの件を引きずってる。
多分アルマ←神田←アレン。
あ、紳士がログインしました。
割と双方共にデレてる。あと物凄い勢いで時間が経ってる。
「…………」
馬車の中。
向かい合う椅子の中で僕から一番遠いところに陣取った神田は壁に体を預けて眠っていた。
時折、その閉じた瞳からぽとり、と涙が溢れ落ちる。
僕は教団から逃亡後、マテールに向かい、神田と合流した。
アルマの亡骸を抱き締めていた神田は泣いてこそ居なかったけれど虚ろな目でぼーっとしていて。
神田とアルマを此処に送りはしたけれど、敵は何もノアやAKUMAだけじゃない。そして此処は丸腰の女性をたった一人で何時までも置いておける場所でもない。それはどうぞ襲ってください、と同義だ。
半ば放心状態の彼女の手を取りアルマを土に埋め、手を引いて開けた辺りまで連れていき、馬車に乗せた。
途中正気に戻った彼女が「何で居る」「教団に帰る」と言い出したけれどそれらは全て黙殺した。
――――――教団に帰すつもりはなかった。彼女だってもう帰る意味なんか無い筈だ。だけどそれでも教団に帰ると言ったのは他の行き場を知らないからだろう。
それに、見てしまったんだ。小さな彼女に対して教団がした仕打ちの数々。無理矢理行われる同調テスト。痛みに怯えて嫌がる彼女を力づくで抑えつける腕。苦痛、苦悶を浮かべる表情。挙句の果てには彼女を殺そうとした。見ているだけで吐き気すら覚えた残酷な仕打ち。あれじゃ人間不信になったって仕方が無い。
ましてや母胎とされたアルマが居なくなった今、神田をその代わりにしない、とは僕には言い切れなかった。その程度には教団に対して不信感がある。コムイさんやリナリー、ティエドール元帥はいるけれど、だけど中央庁が強制したとしたら、何処まで抗えるものなのか。
やがて僕が引くつもりがないと判断したらしい神田は諦めたように眠り始めた。起きている間には見せなかった涙がぽとり、ぽとりと落ちていく。
――――――頼って欲しい、縋って欲しい。
そんな、これまでだったら絶対に彼女に対して抱かなかった思いが溢れかえる。直ぐ様行動に移すことは出来なくて、彼女の頬に流れた涙を指先で掬った。
彼女が目覚めたら、何と言って説得しよう。
そんな事を思いながら、僕も目を閉じた。
・ ・ ・ ・
「おい」
「はい?」
ドイツ北西部の森の中。
旅の途中に通りがかったそこは何故かAKUMAが大量発生していた。
それ程近くに民家はないけれど危険に代わりはない。片っ端から破壊していると、後ろで控えていた神田が凍えた声で僕を呼んだ。
「…………お前。いい加減、俺を教団に返せ。別に本部に送れつってんじゃねぇよ、開けた町の教会に置いてきゃいいだけだろ。その後お前が何処に向かうかなんて知らねぇし、別にチクろうとも思ってねぇ」
「…………」
発動を解いた左腕にカモフラージュの手袋を付ける。
今のできっと、近い内に教団からの追っ手がこのあたりに来る。急いで逃げなきゃ。
「さ、危ないから行きましょう。追っ手が来る」
「おい、」
「…………返しませんよ」
彼女の言いたいことは解っている。
戦士としてのプライドの高い彼女は、六幻を持たず、まるで戦力外の自分に酷く苛立っていた。戦闘になれば僕の背に庇われ、レベル2に狙われただけでも自分の身一つ守り切るのが難しい。背中に庇われる度に関節が真っ白くなるまで手を握り締めていたのを知っている。
そして彼女は教団が自分自身に対して持っている価値を理解っていた。それは僕の見解とまるで一緒だ。なのに何故帰る、などという発想ができるのか。僕には心底不思議だ。アルマと同じように母胎にされ、サードを生み出すための道具にされるかもしれないのに!!
ともかく、帰すつもりなんて毛頭なかった。それは最早意地なのかもしれない。
「…………逃げおおせるのにだって、重荷になるだろう」
彼女が呟いた。
事実かもしれないけれど、けれど彼女を返さない事でその重荷を帳消しにして尚有り余るモノがあるんだ。
だけどそれを説明するにはまだ少し、僕の中の意地っぱりな所が邪魔していた。
・ ・ ・ ・
路銀が尽きれば街で働いた。
日雇いでの労働は久しぶりだ。少しでも種銭が出来れば賭場で何倍にも出来る。
けれどそのどちらにも神田を連れていくことはなかった。「美しい女性」に対して男性が望む「労働」とは万国共通だろう。
一度、一番最初大きな街に付いたとき、神田は見知らぬ男性に値段を提示されて戸惑っていた。それは大金であり相場から考えても相当弾んでいる額だ。その額を見て漸く僕は、「世間一般的に見る彼女の容姿への評価」を思い知った。
一晩どう、その意味を彼女が理解せずに本当に良かった。
…………冗談じゃない。誰かそんな事をさせるものか。
賭場から宿への帰り道。今夜はお金が無くてシングル一室しか取れなかった。一つのベッドをどうやって使おうか、などと思いながら受付の前を通りぬけ、軋む階段を上がる。
神田は数回脱走を図ってくれたので――――――その行き先が教団でなければまだ許容できるが、間違いなく教団なんだ――――――今ではティムに彼女を見て貰っていた。最近では諦め気味なのか脱走の回数も減っている。
着替え中だといけないから軽くドアをノックした。返事はないが拒否も無い。
申し訳程度の細い鍵を鍵穴に差し込んで、ドアノブを撚る。
「戻りました、神田」
「…………」
もうじき眠ろうとしてたんだろうか、綿の夜着一枚だ。
彼女は古びた出窓に腰掛け、膝に乗っているティムをぷにぷにと指先で弄っていた。ティムも大人しくされるがままになっている。
「…………ん? それ、何ですか?」
出窓の下にあるのは、粗末な動物の毛の織物らしい敷物と、所々繕われた毛布。
「…………何って、見りゃ分かんだろ」
「敷物と、毛布ですよね」
それは分かるけどどうしてそれが此処に?
僕が疑念の表情を浮かべると、その反応こそ謎だと言いたげな彼女は、
「一室しか取ってねぇしベッドが一つしかねぇのに、どうやって寝るんだよ」
「まさか君、そんな床で寝るつもりですか? 駄目です、体を冷やします」
僕の言葉に鬱陶しそうな顔をして、
「お前は俺の親か何かか。じゃあどうしろっつーんだよ」
「そうですね…………まぁどうしても、なら僕がそっちで寝ますから君はベッドを使ってください」
「阿呆か、お前の金で取った部屋だろ。お前が使えばいいじゃねぇか」
「そうは行きません、男なんで頑丈ですよ」
暫く言い争った僕らはやがて一つの結論に達した。
…………のはいいけど、これは中々…………。
大して大きくもないシングルのベッド、身を寄せ合って――――――最も可能なかぎり離れようとしているが――――――眠る。けれどほんの僅か離れたそこからは、神田の髪のいい香りがした。
僕も神田も引かなかった結果がこれだけど、正直言ってどうかと思う。男と同衾、なんて神田なら確実に嫌がりそうなのに。あぁ、もしかするとそもそも年下の僕はそういう風に思われる対象ですらないのかもしれない。それはそれでへこむ。
逃亡中で、そんな場合じゃないのに腰の辺りに熱が燻りかけた。全く我乍ら本能とは度し難い。
熱の発散のためにシャワー室に行くべきか。悩んでいる途中に、
「…………ル、マ、」
「…………?」
「ア、ルマ…………」
「…………」
背中越しの僕に聞こえる悲痛な響きの寝言。きっと涙を流しているだろう。まだ癒えきらない彼女の傷が、こんな時だけはっきり見える。
忘れればいいのに、なんて言えなかった。僕だってマナの事は忘れられない。
肩越しに手を回して神田を抱き締める。目が醒めている時にやったらセクハラ扱いで殴られそうなものだけど、今なら。
少しでも彼女の心に寄り添いたい。そう願った。
この日以降、僕は部屋が空いていてもいなくても、路銀に余裕があるかどうかに関わらず、一つの部屋と一つのベッドしか取らなくなった。
所でコレは後に続くギャグ小説の前振(ry
何が紳士ってこの状況下で手を出さないことが紳士。
ところで原作でもあの六幻の無い状況でアレンと合流しても神田戦力にならないんじゃないかなと思っている。
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