「そういえばジュニアに聞いたが。随分ティエドールの奴にボコられてるらしいな」
「あ、はい。中々ユウとの事を許して頂けなくて。…………何か僕の昔の話とか結構耳に入ってるみたいなんですよね、だから余計にだと思います」
あの親馬鹿。当人同士が良いっつってんならそれに任せとけよガキじゃあるまいし。
思わず胸中でそう毒付く。
「あのヒゲの事だ、どうせ婚前交渉がどうたらだのうちの娘を誑かしただの言って来るんだろ」
「よく分かりますね…………」
「伊達に何年も同僚やってねぇ」
最も互いに教団外へ出ている。顔を合わせた時間はごく短い。
元々自分の弟子を異様に愛する奴だがこれまで奴の弟子は揃って男ばかりだった筈で、確か神田はティエドールからしてみれば最初の「娘」だ。
だからまぁこれまで以上に可愛がるのも分からんでもない。分からんでもないが。
「教団に帰ってきてからずっと、半年前からティエドール元帥がここに居るときは毎日通ってます。今日もこれから行くんですよ」
「ほう。つーと奴は今ここに居るか」
「はい」
神田の方を見て確認すると神田はこくりと頷いた。そりゃまた都合がいい。「直談判」しに行くには。…………しかし、だ。
「…………半年前か」
随分前からじゃねぇか。面白くもねぇ。
俺の顔色に察したか、
「仕方が無いじゃないですか、師匠此処に居なかったんだし。それにこういうのは女性方の親御さんの許可を取るのが大変な物でしょう?」
「…………」
まぁ確かに帰って来なかったのは俺だ。
そう納得することにする。
この後もまた行く、か…………
暫くどうでもいいようなことを話していったアレンは、やがて食事の後ティエドールへの元へ行くという事で去っていった。
珍しく奴についていかずにその場で漂うティムを指の動きで呼び寄せる。
「あの二人は上手くやってるのか?」
この場合の上手く、とは勿論頭に「夜の方」と付く。
愛情だけで末永くやっていけるとは残念ながら思っていない。やっていける奴もいるのだろうがアレンがそうかどうかは分からない。手練の女が齎す快楽を知っている奴だ、難しいんじゃないかと踏んでいる。
ある程度、相性的な物も必要だ。
暫く迷うようにうろうろと宙を彷徨ったティムは、やがて一つの動画を吐き出した。
全体的に暗いのは夜に撮ったか暗がりで撮ったか。
やがて始まった動画で、これがつい最近なら(内装は教団の部屋のものだ)「子供は当分先」の意味を正確に理解した。
確かにこれじゃあ出来るわけがねぇ。
「まだヤッてねぇのかアイツ…………」
誘われれば断らないアレンはどちらかと言えば手が早い部類だ。それが、何時から神田と恋仲になったか知らないが未だにまともに抱いていないとは。
確かに愛撫されるだけで神田の痛がりようが尋常じゃない。そういえばプロの娼婦か、プロでなくとも経験豊富な女としか関係していない奴だった。生娘の扱い方が分からない、そういう事だろう。
「…………こりゃあ何か対策しねぇとなぁ…………」
何時迄経っても孫の顔が見れない。
ティムの動画も終わり、ガキどもに渡す「教材」を探すべく、立ち上がった。
「あっ! いたわ!」
食堂で向かい合ってご飯を食べていた僕らは(珍しく神田は蕎麦以外に小さな肉類の小鉢をつけていた、さっき師匠に言われたことを気にしているんだろうか。でも苦手な為か箸が余り付けられていない)、リナリー達に声を掛けられた。
神田の後ろにいたのはリナリーとエミリア、ミランダさん。リナリーは何やら厚い本? カタログ? のようなものを持っている。神田も声に応じて振り向いた。
「神田、ご飯はもう終わる?」
「終わるが…………」
何だ? という顔で神田が三人を見る。
「結婚式用のドレスに使うレースのサンプルが届いたのよ。あと、ドレスの型見本もね」
エミリアの声は随分弾んでいる。
神田は訝しげな顔で、
「…………式? ドレス?」
そんなものあるのか? という顔で僕を見た。
「…………やらないつもりだったんですか?」
「お前はやるつもりだったのか?」
「やるに決まってるでしょ! 女の人の一大イベントよ!?」
ビシッ、と指を突き付けられた神田はそれでも納得しない顔だ。
「金掛かるし、いい」
「神田…………」
「そんなのに使う金あったらクロス元帥の借金返済に当てた方が良いだろ」
「…………」
思わず両肘を机に付けて目を覆った。僕は結婚式も挙げられないくらい甲斐性なしだと思われてるんだろうか。確かに師匠の借金はまだまだあるけど。それがティエドール元帥に結婚を反対される原因の一つになってるけど。…………あれ、駄目? 僕って結構な甲斐性なし? でも自分で作った借金ならともかくこれ全部師匠が作った借金だけど。
自分で考えといて何だけど、甲斐性なしという単語がずっしりと肩にのしかかった。
「大丈夫よ、教団が見てくれるから」
「そうなのか?」
「そうよ?」
あれ、そうなんだ…………知らなかった。
「…………そんな見世物みたいなイベントなんざ…………」
まだ神田は渋っている。お金云々以前に自分が注目されるのが嫌みたいだ。
他の女性陣に怒られる前に、口を挟んだ。
「神田。僕、神田がウェディングドレス着てるの見てみたいです」
「…………」
あ、ちょっと心が動いた顔をした。あともう一押し。
「結婚式って、女性が一生の中で一番綺麗になる日なんですよ」
「…………。期待外れだとか言うなよ?」
「言いませんよ!」
「大丈夫、言わせないわ」
爽やかに笑ったリナリーの笑顔が何故か少し怖い。いや、そんな事絶対に言わないから大丈夫なんだけど、それでもちょっと怖かった。
「じゃあ、神田は借りてくわね」
「あ、ちょっと、待、」
エミリアとリナリーにガシッ、と両脇をホールドされた二人はズルズルと引っ張っていかれた。
「じゃあ僕は後でティエドール元帥の所に行ってますね」
あれは女性の領分だ、僕が立ち入るものじゃない。それに当日まで知らないほうが楽しいだろう。
引き摺られていく神田に笑顔で手を振り、彼女を見送った。
師匠はアレン達の動画を全然エロい目では見てない。
純粋に心配してるけど心配の方向性がちょっとおかしい。
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