女性陣がダベってるだけ。
「…………」
「ねぇねぇ、こっちは?」
「こっちの方が目が細かくて綺麗じゃない?」
「…………」
どーでもいい…………。
リナリー達が見せてくるレースやらドレスやらの見本は正直どれも同じようにしか見えない。
レースは柄が違うだけで遠目から見たらどれも同じだし、ドレスは襟や袖の形がちょっと違うってだけじゃねぇか。どれ着たって一緒だろ。
「アイルランド産も素敵だけど、ヴェネツィア産も素敵ねぇ…………みて、この繊細な柄! 素敵だわ…………」
じゃあお前が着ればいいじゃねぇか。
エミリアが歓声を上げて指差すが、正直その隣りのと何が違うのが全然分からない。どれを見ても只の布の切れ端だ。…………分からないのに下部に示された値段が全然違うのはどういう事だ。これは一体何を基準に金額が決まってるんだ。
「神田は? 神田はどれが良い?」
「どれでも…………つーか、分かんねぇ」
どれでもいい、と言いかけた瞬間リナリーが例の怖い笑みを浮かべたので慌てて弁解する。我乍ら情けない。
「自分がどれが似合うと思う?」
「分かんねぇよ…………」
だってこんなの、着るつもりなんて無かった。
昔からひらひらふわふわした服は好きじゃない。そういうのはリナリーの好みだ。ましてや結婚式? ウェディングドレス? 小さな頃のリナリーの将来の夢で出てきた位で俺は「あぁそうかよ」で流す係だった。
俺はあんなの似合ない。ウェディングドレスじゃなくても、師匠の寄越すその手の類の服は一度足りとも袖を通さなかった。だって似合わないし、きっと笑われる。
だから着たくないんだ。俺に悪く言ったらアレンはリナリーに殴られるだろうから言わないだろうけれど、でも吹き出すくらいはやるかもしれない。
「でも実際当ててみないと、ってのはあるわよね」
うんうん、と頷き合う四人。…………そう、四人だ。何故か途中で通りがかったクラウド元帥が混ざっている。
クラウド元帥もこういうのには冷笑を浮かべるイメージだったんだが…………
どうでもいいからこんなの自分の結婚式でやってくれ…………。
「こっちのは?」
「まぁ素敵!」
…………アレン…………。
今頃そろそろ師の所へ向かったのだろうか。
どうしてあんなにも反対されるのかよく分からない。他の弟子が結婚する時にあんなに反対するなんてことは聞いた事はないし、多分無いんだろう。実は嫌われてるんだろうか。
鬱々とした考えに囚われていると、
「…………貰う側の親と貰っていかれる側の親では、随分心境も違うだろうな」
「?」
クラウド元帥が微苦笑を浮かべながらそんな事を言った。
「ティエドールの場合は貰って行かれるというよりは奪われる、という心境なんだろう。…………初めて娘が出来たんだと随分喜んでいたからな」
「…………」
思わず視線を伏せた。マリに伴われて師に会って、弟子として受け入れられた。
そのことについては今でも感謝している。だが、娘とは。
「まぁ最終的には神田が泣き落とせばいいんじゃない? アレン君は自分が神田のお婿さんだって認めて欲しくてやってるんでしょう?」
「…………多分」
「神田君、元帥も心の中では喜んでいらっしゃると思うわ」
ミランダがそう言って俺の手に手を重ねた。三年経って、ミランダの目は穏やかだ。以前の何時も何かに怯えたような目はしていない。それは俺よりも先に伴侶を得たことにも寄るんだろうか。左手の薬指に控えめに光る銀色を贈った男の顔を思い出してさもありなん、とも思う。
「けれど、まだ少し認めたく無いだけだと思うの」
「…………うーん」
「…………いや、それはどうかな…………」
ミランダが何か良い事を言ってるような気がするんだが、リナリーとクラウド元帥は首を傾げた。顔には「あの親馬鹿に限っては…………」という顔だ。
「だって、大事な娘ですもの。幸せになれるなら邪魔はしないでしょう?」
「問題はまだティエドール元帥の中でアレン君と一緒になることイコール神田が幸せになれる、の方程式が成り立ってない事よね」
「女性問題と借金だな、大きな問題は」
「女性問題…………」
エミリアが小さく呟いた。意外だ、という顔もしている。
「中々どうして、若いのに「やる」と私達の間でも有名だったからな。褒めてないのに何故かマリアンは誇らしげだったが。…………ティエドールは娘に悪い虫がついてはと随分心配していた」
「…………」
…………アレン…………
まぁ、確かにそうだ。俺だって見た。
「…………二年と半分位、」
「ん?」
「ずっと二人で旅をして、…………色々誘いもあったけど、あいつは一度も受けなかった」
想いを告げられてからは「誠意を示す」と言っていた。
最初は勿論俺だって信用するのは難しかった。旅の同行者の俺を都合の良い玩具にするつもりかと怒ったことだってある。
だけど、他の女には見向きもせず俺が拒めばそれ以上は触れてこないその態度に、少しずつ信用を積み上げていった。
大切にされている、と思う。
比較の対象を持たないから、よく分からないけれど。壊れ物のようにそっと触れられるのはもどかしいけれどキライじゃない。
「え? 何? 惚気なら他所でやって」
「拗ねるな、そこ」
途端にツンとした顔で文句を着けたエミリアにクラウド元帥が苦笑いだ。
「エミリアのところはあと7、8年ねぇ…………」
「ちょっと待ってリナリー、それってどういう意味? 私その時何歳だと思ってる?」
「私の前でそれを言うか」
「…………申し訳ありませんクラウド元帥」
ぺこり、とリナリーとエミリアが揃って頭を下げる。
そんな事を言いつつ実際は特に気にした風情もなく、
「まぁ、後はウォーカーの甲斐性に任せたらどうだ? その内ティエドールだって折れるだろう」
その言葉直後。
本部に、大きな揺れが走った。
師匠はそれを「男の甲斐性」だと思ってるから誇らしげ。
その甲斐性なしの旦那は今食堂の床に転がってます。
アレン×神田トップへ
小説頁へ