よくある光景である。
神田は溜息を吐いた。
目の前には、一人の男。
許しもしていないのにこ汚い手を勝手に人の肩に置いて、人の容姿に美辞麗句を並べてなんとか何処かへ連れ込もうとしている。
その必死な様子は、同性としてある意味同情すらしてしまう所だ。
よくある光景である。
男を挟んで神田と相対するそこに、逆光で見えないが、絶対に目の笑っていない満面の笑みを浮かべたアレンが左手を発動させている事など。
(…………殺すなよ?)
こんなところでうっかりこの目の前の男の首を跳ねるか頭でもカチ割られたら、俺の団服が汚れる。
神田にとっては自分の団服>目の前の男の命、なのだった。
いよいよ男の弁には熱が篭り、彼は心底うんざりした。
(おい、早く助けろ)
視線だけでアレンにそう訴えると、応じるようにアレンは一歩踏み出して。
「ちょっとすいません」
「あ?」
男が振り返った先には笑顔の白髪の少年。
だが、そんな人好きのしそうな笑顔を裏切るのが一般人には恐ろしいとしか言いようの無い形状の左手(発動中)だ。
「僕の物にちょっかいださないでくれます?」
その言葉に男は自分が地雷を踏んだのだと悟った。 だがしかし、次の瞬間更に恐ろしいものを目にする羽目になる。
ごきょ。
何かが折れたような音と共に、ビューと勢い良く吹き出す血。
たった数秒前まで自分が口説いていた相手の行動に凍りつく。
「一体いつ俺がお前のものに?」
そう言うなり少年の頭を殴り付けた剣鞘を持ち直す。黒いそれから滴る赤黒い血のコントラストが目に焼き付いた。
息を殺してそぉっと踵を返すと尚も倒れた所を追撃するような音が聞こえて。
(綺麗な薔薇には棘がある…………むしろ、触らぬ神に祟りなし、てか?)
素晴らしき格言の体現者に、彼は背を向けて逃げ出した。