さて、御歳18歳の上様には、現在主だったご側室がお二人います。
 お歳は18歳と15歳。
 いずれ劣らぬ美男子で、そのお姿は大奥の中でも際立って目立つ方々です。

 お一方は赤翠<せきりょく>の方――――真名はラビ――――、
 もうお一方は白雪<はくせつ>の方――――真名はアレン――――と申されます。
 
 このお二人はお歳が近い事もあり、上様との間にどちらが先にお子を儲けるかで熾烈な争いを繰り広げているライバル同士なのでした。




 

「ユ〜ウ!!」
「うわっ!」

 昼間、お一人で昼餉を取られた上様の元に(御台所様(※1)はまだお休み中です)、人影が飛びつきました。

「うわっ! ラビ、てめぇっ!」

 ご側室のお一人、赤翠の方です。
 
「ユウ、今暇さ?」
「暇じゃねぇよ! 放せ馬鹿!」
 
 赤翠の方は上様と同い年の18歳。
 2年前、上様が将軍となられる直前にご側室となられた、現在の大奥では御台所様に次いで古株のお方です。
 京都の帝のご信頼深いさる大臣の子息にしてご本人も従二位に遇されている貴人でもあらせらます。 
 上様が7歳でお迎えになられた御台所様は上様と歳が離れていた為余り仲睦まじいとは言いがたく、また、御台所様が大奥の取り仕切りにご興味が無い為実質的には赤翠の方がお指図される事が多いのです。
 しかしながらそんなことは関係無く、お二人は半ばご友人のようなご関係ですが――――――

「いやさ!」
「あーもう、うぜぇっ!」
「放してあげたら、今夜俺んトコ来るって約束してくれる?」

 台詞の最後だけ声を低くして、赤翠の方が囁きます。 
 此れまでに無かった強引さには理由がありました。
 つい半年前に大奥入りした白雪の方。
 大大名家の子息であった事と強力な後ろ盾の為に僅か半年で御中臈(※2)にまで上り詰めた彼を、赤翠の方は警戒しております。
 もとよりご内証の方(※3)に内定していながら未だ褥を共にした事の無い赤翠の方は、最近は表には出さないもの焦っていらっしゃいました。
 
「…………っ、」
「さ、どうする?」

 しかしそんな赤翠の方の心情には気付かない、さっ、と顔色を変えた上様は――――――

「ってめぇ上等だこらぁぁぁぁっ!!!」
「いだっ!!」

 赤翠の方の脇腹に肘鉄をかますと、緩んだ腕を強引に振り解きました。

「この野郎上等こきやがって! 死ね!!」

 愛刀六幻を構え、ぎり、と廊下で蹲る赤翠の方を睨みつけます。

「…………ユウちゃんそんなに怒っちゃいやんv」
「…………キモい、死ね!」
 
 言い捨てると、上様はずかずかと歩き去っていきます。

「あーあ…………」

 …………それを見送る赤翠の方の眼差しには、切ない色が浮かんでおりました。
  


(※1)御台所:将軍の正妻
(※2)御中臈:大奥の職の一つ。高級奥女中。将軍の側室は多くはこの職の中から選ばれる。赤翠の方(ラビ)は御中臈頭。将軍付きと御台所付きがおり、赤翠の方は将軍付き、白雪の方は御台所付き。
(※3)ご内証の方:未成年の将軍に性の手解きをする役目。大奥のbQ(側室第1位)が任じられる。




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