「全く…………御年寄から上様が行方不明との報告を受けて心臓が止まるかと思いました。貴方という方は…………」
上臈御年寄。
御台所様のお輿入れに伴い郷里より大奥入りする、有職故実に長けた大奥最高位です。将軍夫妻、主には御台所様のご相談役でございます。
「チッ…………番犬のお出ましか」
――――――但し今の御台所様の場合は、どちらかといえば上臈御年寄はご相談役というよりは監視役、と言った方が当てはまるでしょう。
上臈御年寄、リンク。
この大奥で(厳密には外部の人間なのですが)、御台所様とやり合えるたった一人の人物です。
「…………赤翠の方、白雪の方」
「「は、はい」」
「上様の御支度のお手伝いを。御台様には私から申し上げたい事が多々ございます。私が京に戻っている間に色々な事をしでかしたご様子ですから」
ずるずるずる…………
上臈御年寄により御台所様は引き摺られて出て行きます。
半ば呆然とそれらを見送ったお二人は、はっ、として慌てて上様の下に駆け寄りました。
「ユ、ユウ大丈夫?」
「神田っ」
「…………っ」
細帯で縛り上げられていた手を解き、脱がされ下敷きにされていたご衣裳で上様の身体を包み込みます。
「…………、リナリー!!」
「「うわっ!!」」
「あいつ何処行きやがった!?」
「リ、リナリーならコムイと一緒に…………」
上様は衣服をばさりと羽織ると、怒りも露に飛び出していかれました。
残された赤翠の方と白雪の方は顔を見合わせます。
「…………おーい、ユウー…………」
「…………怖い思いしただろうって思ったんですけど、心配なさそうですね、あの様子なら…………」
「あの調子ならむしろ今食っちゃった方が良かった?」
「うわ、ラビそれ今更過ぎますよ…………自由な神田をどうやって押さえつけるんですか」
「だよなー…………」
お二人は顔を見合わせて溜息を付きました。
―――――――外からは怒号と破壊音が聞こえてきます。
―――――――大奥は、今日も平和にございました。
「次はどうしようかしら?」
「リナリー、此処は一つ僕が高性能の媚薬を開発すれば」
「あら、それはいいわねv」
「…………てめぇら、聞こえてんぞ!!」
―――――――大奥は、今日も平和でございますよ?
<終>