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とある、緑も美しく太陽が盛んな夏の朝。
その小さな国の王様は、その国に代々名を残す勇者の家系の息子を城にお呼びになりました。
勇者の子は十八で勇者となるのが定め。まるで図ったかのように魔王の復活も囁かれています。
その話を捨て置くわけにはいきません。
国は勇者の子を魔物達の城へ遣わす事に決めました。
そして、その前途ある若者の旅を祝福しようと、王様は目の前で頭を下げる勇者の子――――――いえ最早今となっては彼も勇者なのです――――――に声をかけました。
「ゆうしゃ(笑)ラビよ、お前の十八の誕生日、国中が祝っておる」
「…………そりゃありがとさん。で、何? 何その「ゆうしゃ(笑)」って。そりきょーび勇者なんてベタなの流行らないだろうけどさぁ!?」
新たな勇者改めゆうしゃ(笑)――――――ラビは、下げていた頭を上げて文句を言いました。
「(笑)まで含めてお前の職業名だ、諦めろ」
「ちょっ…………何、バカにされてるんじゃなかったんさっ!?」
「習い通りとすれば十八で確かにお前は名誉ある勇者の一人として認められよう。しかし、じゅくじゅくの未熟者であるお前においそれと名乗らせることが出来るほど、勇者の名は軽くはない」
「…………。」
王様にそう言われ、ゆうしゃ(笑)ラビはぐっ、と言葉に詰まりました。
確かに、ラビの父の若かりし頃に比べ、世界は平穏でした。先の魔王を倒したのはラビの父親です。
そして魔王は一度倒されれば、通常数十年は復活しません。
なので、ラビは、いえラビだけではなくその周囲の人間も、ラビが魔王討伐の旅に出るとは誰も思っていませんでした。
魔王討伐の使命がない勇者の子は気楽です。
国から、働かずとも遊んで暮らせる程の、十分すぎる額の莫大な年金を与えられます。
本人がすることは、血を絶やさぬように婚姻し(しかも条件さえ揃えば、一夫一妻制のこの国に置いては国王ですら認められない複数の妻との婚姻、一夫多妻を認められる待遇です)、そして子達に伝承するために武を磨く。
あとはせいぜい国の周辺に出没する魔物を狩り、余生も周囲の尊敬を一身に集めながら送る――――――という生まれながらの勝ち組人生なのです。勿論その人生は、先祖達と、そして子孫達の犠牲と苦労の上に成り立つモノなのですが。
まぁ、ともかく、そういう人生を送る予定だったラビは、父親達のような厳しい修練は積んでこなかったのでした。
勿論仮にも勇者の子。
人並み以上には鍛えてはいるのですが。
「…………だってしょうがないじゃん、俺魔王討伐なんて出る予定じゃなかったんだし…………」
「泣き言を言っても仕方ないぞ。さぁ、その箱を開けて、とっとと旅立て!!」
王様にせき立てられ、ゆうしゃ(笑)ラビの愉快な旅は幕を開けたのでした。
「…………いつ見ても怪しいよなぁこの店構え」
ゆうしゃ(笑)ラビは町外れの店の前で、その店を見上げました。
その店は、外観は真っ黒です。
そして店名を掲げた看板は右側だけずり落ち、今にも頭上に降ってきそうな勢いです。
「…………。危ねぇ…………」
子供の時分、散々近づいては行けないと口うるさくされた記憶があります。まぁ確かに子供の近寄るような場所ではありませんが。
此処は、冒険者達の集う酒場です。
とはいえ、魔王の居ない世代の冒険者というのはゴロツキとそう大差ないのが世の常です。魔王が居ない間は大抵魔物達も弱体化しているのですから。
「行くかぁ…………」
気乗りしない顔で、ラビはその店のドアを開きました。
ギィー…………
蝶番が今にも壊れてしまいそうな音を立てながら動きます。
中は外観と反してそれなりに明るさがありました。但し、煙で幕が立ちこめていて、お世辞にも健康的とは言い難いところですが。
「…………人、いないし…………」
店の中に置かれた丸テーブルには人影もありません。
ラビは一番奥、店の主人が行る場所を目指し――――――そしてそこにいた人を認めると、回れ右しました。
しかしながら、一瞬早くその襟首を主人に捕まれます。
「人の顔見て逃げ出すたぁ、良い度胸じゃねぇかクソガキ」
「間違えましたーすいませーん」(棒読み)
…………それは酒場の主人である妖艶な美女アニタではなく――――――
そのヒモ? である男、クロスでした。
「タヌキから連絡は来てる。白を切ろうが意味ねぇぞ」
「…………知ってるんじゃん…………」
クロスは手を離すと、座れ、とカウンター前のイスを指し示します。
ラビは渋々と、言われたとおり大人しく背の高いイスに腰掛けクロスと向き合いました。