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「なーラビ、大丈夫なのかよ?」
「何が?」
「あんな若い女の子連れてって…………危なくねぇか?」
「十六歳ね。危ないって何? あんたが?」
「違うわ!!」

 宿。
 夕食を済ませたラビとティキは、部屋に戻りベッドに腰掛けていました。
 因みにアレンはまだ食事中です。
 付き合ってるとキリがないから…………そう促されラビはティキと共に部屋に戻ったのでした。

「そーいう意味じゃなくて!! つか何もしねーよ!!」
「どーだか。…………まぁ冗談は置いといて。あんた、歴史苦手?」
「? おう?」

 突然飛んだ話題にティキは目を瞬かせます。
 歴史に限らず勉強は苦手です。」

「リー家は四名家の一つさ。初代勇者に付き従った四人の英雄の子孫。今の当主はコムイだけど、リナリーはコムイよりも才がある」
「…………そーなの?」

 言っては何ですが、何処をどう見ても可愛らしいお嬢さん、です。

「そーいうもんなの。まぁ、見てりゃ分かるって」

 じゃあおやすみー、と言いながらラビはベッドの上で寝転がりました。
 その様子にティキは、何を暢気な…………と溜息をついて天井を仰ぎました。






「お待たせ! 大家さん達に挨拶してたの、遅くなってごめんね」
「や、全然。こっちも寝汚いの起こすに手間取ってたからさ」

 一夜を越し、集合場所の村の入り口に集まったラビ達に、少しだけ遅れてやってきたリナリーが手を合わせて謝ります。

「「…………あれ?」」

 アレンとティキは、点目になりました。

「? 何?」

 その視線に気付いたリナリーは首を傾げます。

「あ、あれ? 治癒者じゃないんですか?」
「てっきり術者かと…………」

 彼女の服装は、明らかに前線で戦う者の衣装です。
 異国風の裾長い上着と、中は…………一部の者には残念ながら、スパッツのようなものを履いているようです。

「…………お前らが歴史苦手なのは良く分かったから」
「ごめんなさい、期待に添えなかったかしら…………?」

 しゅん、と項垂れてしまったリナリーを、慌ててラビがフォローします。

「や、こいつらがおバカなだけでしょ。リー家の人間って聞いて何で術者やら治癒者って発想になるんだか」
「? リー家?」
「四名家の一つ。初代勇者の仲間の、格闘家の血筋さ」
「「へぇぇぇ」」

 アレンとティキは感心したように声を上げました。
 
「…………普通学校で…………まぁいいや。行くさぁ」
「はいはい」

 こうしてゆうしゃ(笑)ラビと、その愉快なお供達の旅は幕を開けたのでした。





「所でラビ、今北のスノーランド王国に向かってるんでしょ?」
「ああ、うん」
「村の人から聞いたけど…………今、王国とスノーランド国の関係が緊張してて、物々しい感じだって…………」
「あー…………うん、ほら、スノーランドって今南のほうのアーテフィリアと仲いいじゃん?」


 ざっくざっくざっくざっく。
 
 森の小道を歩きながら、後ろにいるラビとリナリーは会話します。
 露払いのティキの後ろには、重装備のアレン。そしてラビ、リナリーと続きます。
 前衛なのに二人が後ろにいる理由は、それぞれ「こんな所で怪我をされては堪らない」「前衛職とはいえレディーを矢面になど立たせられない」というアレンとティキの主張に寄ります。

「ええ。確か、アーテフィリアの王妃様はスノーランドの王様のお姉様なのよね?」
「そーそー。つまりあの二つの国の王様は今義兄弟って訳。…………どーも国はさ、アーテフィリアに喧嘩売りたいらしいんだわ」
「!」

 驚いたように眉根を跳ね上げるリナリーにラビは溜息を吐いて首を振ります。

「今必死に難癖つけようとしてるとこ。デザートローズの事もある…………。多分、同じようにしたいんだろうな」
「そんな…………」
「これでアーテフィリアを下せれば大陸南部の覇権は国が握る事になるからな。小さい国だからこそ、あの領土欲だ。勘弁して欲しいさ、こっちは世界救うのに必死だっつーのに」
「…………」

 リナリーが何とも言えない顔で、俯きました。

「兄さんが言ってたわ」
「?」
「戦争末期のデザートローズは、地獄だったって」
「…………」

 先の戦争で王国に敗北し滅ぼされたデザートローズ王国。
 国が滅んだ後、国民は散り散りになったといいます。
 王族は生まれたばかりの赤ん坊を含めて十余名が公開処刑され、行方が知れないとされている数人についても未だ莫大な懸賞金が掛けられている状態です。
 旧王族全てを滅ぼしたときこそ、真に従属させたといえる――――――お笑い話にもなりません。荒廃した土地に、国民の居ない国。そんなものを今さら得て、何がしたいのでしょう。

 王国がアーテフィリアに対し戦争を吹っかけようとしているのには、一説にはアーテフィリアがデザートローズの王族達を匿っているのではないか――――――そんな疑念があるのでは、といいます。

 どっちにしろ、血なまぐさい話には変わりありません。

「碌な事にならねぇのになぁ…………」

 呟いたラビは、ぼんやりとティキの後姿を眺めました。




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