<11>

「え」
「ええー…………」
「申し訳ございませんが貴方方に船をお貸しする訳には行きませんな」

 スノーランド。
 大陸最北部のこの国を通り、此処から船旅をするのが魔界と呼ばれる魔物達が跋扈する土地への最も短く、行きやすい道のりです。
 しかしながらその港で、ラビ達一行は船の貸し出しを拒否されてしまいました。

「何故ですか? 料金ならきっちり支払いますよ?」
「お金の問題ではありません」

 きっぱり、と断れてしまいます。
 アレンの交渉術も、ラビの勇者の一族の威光も通用しません。
 理由を聞いても「お話できません」の一点張り。
 四人は港から退散する他ありませんでした。

「困ったな…………」
「うーん…………」
「やっぱり、アーテフィリアとの件かしら…………」
「「「「うーん…………」」」」

 四人が道端で頭を抱えていると、

 
 ドンッ


「きゃっ!」
「!」

 道行く人に、リナリーがぶつかられました。
 よろめいた彼女をラビが支えます。

「大丈夫さ?」
「ええ、有難う」
「何つー奴さ…………」

 ぶつかった相手は謝りもせずに行ってしまいました。
 それをラビは眉根を寄せて相手が去っていった方を見ます。

「…………ティキ、今の」
「ああ。追うぜ」
「「!?」」

 ティキとアレンは、突然駆け出しました。
 何が何やら分からず、けれど置いていかれてはたまらないとラビとリナリーもそれを追って走り出しました。





 細い路地裏。
 そこには二人の人影がありました。

「ヒヒッ、どうだった?」
「ああ、ばっちりだぜ。トロそうな女だけ狙ったからな」
「一杯入ってるかなー」

 二人は顔を近づけてひそひそと話し合います。

「はいはい、そこのガキんちょ共ー」

 そこに割って入ったのは、ティキでした。

「あ? 何だよテメェ」
「大人しくギッたもの返せよ〜。ついさっきブルネットの女の子から盗ったのだけでいいから」
「はぁ? 何の事だよ? いちゃもんつけてんじゃねーぞ!!」

 二人組みはティキを睨むと、懐からナイフを取り出します。

「おいおい、物騒な真似しなさんな。――――――この人数相手に立ち回るの?」
「「!!」」

 ティキの背後からはリナリーが、そして路地裏の向こう側、二人組挟んで反対側からはアレンとラビが姿を現しました。

「な、んだよテメェら!!」
「ヒヒッ…………」

 何時の間にか背後を取られていた事、そして退路を塞がれていた事にあからさまに二人が動揺します。

「だから、優しく言ってる内に返せっての。何も警備隊に突き出すなんて言ってねぇだろ? 女ばっかり狙うってのは綺麗な手口とは思わねーけどさ」
「大人しく彼女の物だけ返すして後は見逃されるのと、フルボッコにされて警備隊に突き出されるのどっちがいい?」

 ラビが重ねて問うと、二人の顔色が露骨に悪くなりました。

「は、はんっ! 東から来た奴が何言ったって此処の警備隊は取り合わねーよっ!」
「ヒ、ヒヒッ! そうそう! 敵国の人間に何したって罪にはならないよっ!」
「でもそれ、私は東から来たからそうなのかもしれないけれど、他の被害に遭った人はこの国の人よね?」
「「…………」」

 リナリーが至極真っ当なことを言うと二人組は沈黙しました。

「…………まぁあれですけどね。引いて上げてもいいんですが」
「アレン、良くないさ」
「リナリー! しょうがないからこれで手打ちでもいいですかー?」

 そういって、アレンは袋を高く掲げました。

「中身まだ確認してないから幾ら入ってるかわかんないですけど、結構重いんですよねー」
「「!!」」
「何それ?」
「落ちてました」
「う、嘘つけ――――――!! それ俺らのっ…………!」
「今日の稼ぎってか?」

 ティキが笑って手を上げます。

「行きますよー」

 そのティキに向かってアレンが袋を放り投げました。
 二人組が手を伸ばそうとしますが、二人の遥か頭上を越えて、丁度良くティキの手の中に納まります。

「お、ホントだ結構重いな。銅貨だったら50000G位にはなりそうだな…………リナリー、財布の中幾ら入ってた?」
「え? ええと…………2000G位かしら」
「差し引き48000Gの得だな。これで良しとしない?」

 にこやかにティキがリナリーに袋を手渡しました。
 手渡されたリナリーはあからさまに盗品であるそれらに、戸惑ったような困ったような顔をします。

「え、でも…………」
「あー、もう! その女の財布返してやるから、それ返せよ!」
「そーだそーだ!!」

 二人組からブーイングが起こりました。
 ティキはリナリーから袋を受け取り其れを二人組に渡します。応じて、二人組は小さな財布を投げつけるようにして返してきました。
 アレンとラビが横へ退き、道を作ってやると走り去っていきます。
 それを見送って、ラビとアレンはティキとリナリーの元へと寄って行きました。

「中身は? 大丈夫?」
「ええ。ありがとう、二人とも。私ちっとも気付かなかったわ」
「いえいえ。こういう大きい町は危険ですからね」
「ああいう手合いも多いし。気をつけなよ」

 あー良かった良かったと言いながら四人は路地裏から、目抜き通りへと出て行きます。
 …………その時、後ろ手にアレンがこっそりティキに袋を手渡して囁きました。

(中身、銀貨でしたよ)
(まじで?)

 あのスリの二人は、あの袋の中を見たらさぞや取り乱すでしょう。中身は財布やら何やら――――――但し、その財布の中身は石ころという有様です

 二人組はスリよりも性質の悪い、ペテン師と盗賊を相手にしてしまった時点で負けておりましたとさ。




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