<15>

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………正直ありません…………」
「…………。ラビ、ちょっとティキの体抑えててください」
「良いけど何するんさ?」
「僕の武器に結わえ付けて街中引き摺りまわします」
「怖っ!!」

 割と本気の眼の色のアレンに、ティキは肩を抱いて震え上がりました。
 
「まぁまぁまぁ。落ち着くさアレン。ティキだって反省してるんだし」
「…………」

 たった今ベッドの上で土下座中です。
 何処から取り出したのか、荒縄で輪を作りながらアレンは聞かない顔。
 そんな彼にラビは続けます。

「それにアニタさんからティキが目ぇ醒めたら伝えて欲しいって言われてたじゃん? 行かなくていいんさ?」
「! そうでした。ちょっと行ってきます」

 雇い主には従順と、商人としては果てしなく正しい姿を見せつけながらアレンは踵を返し部屋から出て行きました。

「…………あいつ、縄持ってったさ」
「深夜に縄もって女の部屋訪れるなんて変態以外の何者でもねーよな…………」

 ですがわざわざ指摘しません。それは先ほど脅された事への報復でもあります。

「で、さぁ。実際んとこ、どーいう訳?」
「…………良く、分かんねーんだ」
「分かんねーって…………庇ったのお前じゃん」
「いやほんとそうなんだけどさ」

 ラビは困ったように眉根を下げます。
 ティキだって気持ちは同じです。

「…………ただ、何か。懐かしいような、」
「…………」
「…………何だろな、守らなきゃって…………思った」
「…………ふーん」
「あ、あとそうだ。俺の剣だけど、アレ変な魔法掛かってないか?」
「魔法? そんな気配感じなかったけどなぁ…………それにそんなの掛かってたら売る前にコムイが解除するだろうし」
「何かあの時、すげぇ熱かったんだ」
「特定の状況下発動する、って事か…………? まぁどっち道一回国に戻るから、その時にコムイにでも確認するさ」
「おう」

 何だろうなぁ、と言いながらティキは自分の細剣を振り回しました。
 その様子を見てラビは顎に触れながら、一人思索に耽るのでした。








「…………あー、もしもし? コムイ」

「うん、元気。…………大丈夫だって、リナリーも元気さ。何もされてないって…………」

「…………うん…………。何盛ったんさ? …………うわぁエゲツねー」

「はは、冗談冗談。コレから一度、そっちに戻るから」

「そうさ。そう、船出せなかったから…………ああ。そう、それから聞いときたいんだけど、ティキの剣。あれ、何か魔法掛かってる?」

「――――――ふーん、そうさね…………一度見てもらったほうが確実か」
 
「そうそう、それで。俺達が戻るまでに集めといて欲しい資料があるんだけど」

「うん。――――――デザートローズ旧王族の、生存可能性者のリスト。出せそう?」

「ああ、頼むさ。それじゃあな」









「「…………」」
「殿下方、メシが温まりましたぜ」
「「…………」」
「アニタ様も過ぎた事はしょうがねぇって仰ってくだすったじゃねぇですか」
「「…………」」

 深夜の乱闘に疲れた彼らは、夜食の支度の最中。
 けれど二人は、ただ押し黙ってじっとしています。
 主人が碗を受け取らない事に従者達は困り顔。

「王子、」
「「…………」」
「如何なさったんですかい?」
「…………何か、思い出しちまった」
「知らない筈なのに」
「だけど、思い出した」
「「「「「?」」」」」

 主人の言に、その場に居た彼らは意味を推し量りかねて顔を見合わせます。 
 
「父上が殺された時のこと」
「――――――!」
「変だよな、俺達がホンのガキだった頃の事なのに、」
「何か、あいつ見てたら――――――思い出しちゃった」
「「「「「…………」」」」」
「…………今となっては遅いことではございますが」

 一人が、主人の頭に触れながら静かに呟きました。

「あの青年。あの容姿。我らと同郷であったのかもやもしれませぬ」
「…………やめろよ、それこそ洒落にならねぇだろ」
「同胞を傷つけたなんて、思いたくない…………」
「…………」

 眉根を寄せて首を振る二人に、老齢に差し掛かったその従者は続けます。

「今となっては遅いことではございます。ですが、あの青年は命は無事――――――まだ何も、終わってはおりませぬ」
「「…………」」
「明日彼らは此処を発つとアニタ様からお伺いしております。その前に、お尋ね申しては如何でしょう」
「「…………」」
「さぁさぁ殿下方。腹ごしらえとしましょうや。腹が減っては戦はできねぇですよ!」

 無理矢理に料理番が碗を二人に押し付け、明るく振舞います。
 渋々手を付け始めた二人を見届けてから、老齢の従者一人と、それから主人の傍に控えていた一人がそっと音も無くその場を離れたのでした。


 パタン。


「…………城の様子はどうだ?」
「ああ。姫様はお変わりないらしい。城下に出れないことを、随分不満に思っていらっしゃるようだが。スノーランドの王子方が遊び相手を務めてくださって居るそうだ」

 二人は主人から離れ、暗い廊下で声を低めて静か話し合います。

「今は耐え忍んでいただく他あるまいて。我らはこの国では目立つ。あの勇者の言うとおり」
「そうだな…………」
「アニタ様は、あの勇者に他意はないのだと。そう仰っておられたが」
「信じられるのか? 勇者は我等が仇敵の子飼いではないか」
「ではお前は、我らが大恩あるアニタ様と、クロス様を信じられぬというのか」
「…………」

 暫しの睨み合いの後、視線を逸らしたのは傍仕えの方でした。

「すまない。失言だ」
「聞かなかったこととしておこう」

頷き、そして彼は小さく続けます。

「殿下ではないが。私も、思った」
「とは…………?」
「あの時、あの青年が我らを庇った時。私も、今亡き陛下の若かりし頃を思い出した」
「…………」
「似ているのかも知れぬな。…………何、我ももう歳だ。耄碌した爺の妄言と流してくれ」
「…………そうしよう」

 溜息をつき、そしてどちらからともなく呟きました。
 
「…………そういえば、ジョイド殿下がご存命であらせられたならば、あれ程の歳でいらっしゃられたであろうに…………」
「そうだな…………」




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