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「ってーか、アニタさんは?」
「店の若い奴らを連れて商談だ。暫く帰ってこねぇ」
「なーる」

 道理で人が居ないわけです。客はまだしも店員までいないのは妙だと、確かに思いました。しかし、それも、店一番の人気であるアニタがおらず挙げ句の果てに店番がコレならば納得です…………客など来る訳がありません。
 
「さて…………お前も大概運が悪いな」
「まーね…………」

 魔王討伐など、出る予定ではありませんでした。そんなイベントはラビの人生プランの中には存在しなかったのです。

「まぁ、一生この国で飼い殺しにされる事を考えりゃ、どっちがいいのかは知らんがな」
「…………」

 …………考えないようにしていた事をズバリ口にされ、ラビは閉口しました。
 働かなくても贅沢に暮らせます。
 しかし、それと引き替えに、勇者の家系の人間には多くの制限も加えられます。
 他の国民と親しくすることは禁忌です。
 勇者の血筋は王ではないものの、尊敬され重んじられるべきものなのだから、と。
 その一方で国の政には、口を挟む事どころか個人的に感想を述べる事すら堅く禁じられています。
 勇者の家系の人間の発言とは軽くないのです。特に乱世の間には、人々の心は王よりも勇者に向く事はよくあります。

「実際、飼い殺しにされるのは飽き飽きしてたんだろう? お前も」
「…………」

 勇者の血は絶やしてはならないもの――――――同時に他国に分け与えてはならないもの。
 その血をもってこの小国は大陸の主導権を握っているのですから。
 故に、自由に国外に出ることは叶わず、出るとしても王宮の兵士達を引き連れ監視される不自由なものです。
 婚姻とて、有る程度は血の繋がっている、即ち勇者の血筋に連なる娘とする事が命じられます。最も、余りにも血が濃くなりすぎると災いを呼びますから、そういう時のために一夫多妻というシステムがあるのですが。

 不自由には目を瞑ってきました。
 これは恵まれた生活の対価なのだと。
 それは諦めでもあります。
 魔王を討伐した偉大なる勇者とその正妻の息子――――――そういう存在である限り、そうする他ないのです。
 
『死ぬまでこの箱庭にいるのも悪くない』

 そう思わねば、狂ってしまいそうだったのですから。

「…………」
「黙りか。まぁ俺には関係ねぇ事だがな。さて、連れてく奴の事だが…………」
「あ、あぁ」
「生憎今は二人しかいねぇ。諦めてそいつらにしろ。…………おい!」

 クロスはそう言いながら店の奥に声を掛けました。
 すぐに人の気配がして、奥から二人、出てきました。二人とも冒険者というよりは、エプロンをつけている時点でただの店員にしか見えません。

「何ですか師匠?」
「何だよこの兄ちゃんは」

 それは、白い髪の少年と、黒い髪に褐色の肌――――――南の出身でしょうか?――――――の青年でした。

「すぐに旅の支度してこいつに付いて行け。勅命だ、拒否権はねぇぞ」
「「へ?」」

 ポカン、とした顔の二人組は、ラビを見て、そしてクロスを見て、もう一度ラビを見て、そしてようやく思い当たったのか声を上げました。

「っあああああ!?」
「まさか、まさかっ!? 勇者んとこの道楽息子っ!?」
「道楽は余計さぁっ!!」
「十八になるとは聞きましたけど、何でですかっ!! 旅もなにも目的が…………!」
「魔王が復活した」
「「…………」」

 クロスの、意外な程に冷静な一言に少年と青年は黙り込みました。

「復活「した」って…………随分断定的さね?」
「何だ、あのタヌキお前には説明しなかったのか?」
「『復活の恐れがある』としか聞かされてないさ。…………ま、国から出される時点でガチだって予想は付いてたけどね」

 ラビは淡々と答えます。

「俺に断定して話さなかったのは逃亡防止?」
「だろうな。その覚悟も無く、覚悟もさせなかったお前には荷が重いっつー判断だろう」
「ナメられたもんさぁ」
「拗ねるな。お偉方にも今回のは予想外だろうよ。本来ならあと五、六十年は平和な筈だったんだ」
「…………」

 魔王の復活には数十年単位での周期があります。
 まだ、前の魔王が倒れてから十年と少し――――――確かに早すぎます。

「ああそうだ。お前等、こりゃトップクラスの機密事項だ。ベラベラ喋って回るんじゃねぇぞ。首と胴がサヨナラだ」
「「…………」」

 青年と少年は無言で首筋を摩りました。
 
「伏せるんだ?」
「ああ。魔王復活に合わせて魔物共が強力化するまではな。下手に触れて回るとパニックだ」
「成るほどねぇ…………」

 それはそうだろうな、とラビは頷きました。





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