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「ゆ、勇者様、」
「んあ? ああ、出迎え? ご苦労さんさ」

 城下町よりも僅かに東に行った所にある、王国の軍港。
 そこに姿を現したラビ達を出迎えたのは蒼白な顔をした責任者らしき上位の軍人でした。

「はい、いえ、それもあるのですが、」
「「「…………?」」」

 その様子にアレンやティキ、リナリーはラビの後ろで顔を見合わせます。

「実は…………つい先ほど、港に魔王の手下らしき魔物が襲い掛かってきたのです。
「「!!」」
「どういう事ですか?」
「彼奴らはこの港を襲い、軍籍にある者達数人を攫ったのです! そして、勇者が来ねば彼らを殺めると…………」
「「「「…………」」」」
「なぁ、」
「任せる」
「同意です」

 困った顔で後ろを振り向いたラビにティキとアレンは手のひらを掲げて選択権を放棄します。
 残ったリナリーと顔を見合わせたラビは、

「行かん、って訳にもいかんしさぁ…………ごめん、寄り道だけど」
「私なら全然問題ないわ。行きましょう」
「…………で? 何処?」






「方向が満更違ってないのが救いだったさ」
「そうですね」

 船に揺られて海を行く一行。
 魔物達が人間を攫い向かったのは、海を北に行った方角にある今は放棄された灯台だといいます。

「これで正反対だったら目も当てられませんからね」
「それでも行くけどさ」
「そりゃそうでしょうけど…………」
「ところでさー、」

「う、ぉぇぇぇぇ…………」
「だ、大丈夫?」

「…………あの光景どうにかならんの? あーあ、あんなに魚に餌あげちゃって」
「なりません。ティキ、船とかに弱いんですよね…………だから大体商談には着いていかないで留守番なんです。所で魚が食べづらくなるような事言わないでくださいよ」
「あはは、ごめんごめん」

 船から身を乗り出し海面にリバース中のティキと、そのティキを一生懸命介護するリナリーを遠目にしながら二人は何処吹く風の顔で続けます。

「それで、ラビ。船下りてからの方向性について決めて欲しいんですが」
「?」
「最優先は人質を生存したまま救出ですよね?」
「そりゃまぁ…………」
「なら、その後は掃討戦ですか?」
「え?」
「僕考えたんですけど、これから行く灯台は使われてないわけですよね。なら魔物ごと爆破して廃棄するってのはどうです? 手間も掛からなくていいと思うんですが」
「や、それは…………流石に過激っしょ。やりすぎやりすぎ」

 手を自分の前でパタパタ振ったラビに、アレンは据わった目で問いました。

「じゃあ、面倒ですけど一匹ずつの殲滅戦ですか。――――――まぁ後世に禍根を残すわけには行きませんもんね」
「…………え、? え?? 何でアレン、そんなに殺る気なんさ? 別に其処までしなくたって、」
「だって、――――――魔物は全人類の敵でしょう?」
「――――――…………」

 感情の起伏を感じさせない淡々とした声。アレンの目は既にラビを見てはおらず、微かに波の先に見える黒い影に注がれています。

「それに人質を取ってラビが来るように仕向けるなんて頭使う作戦、どう考えてもただのチンケな魔物の仕業じゃなさそうですし…………場合によっては魔族の所業かも、」
「…………、」

 ラビがアレンを見る目は複雑そうな色をしたものです。
 
「――――――魔物に、」
「…………」
「何か恨みでもあんの?」

 そう訊かれ、アレンはゆっくりとラビを振り向きました。

「恨み『でも』じゃなくて――――――恨み『しか』ないんですよ。僕には」
「――――――…………」
  





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