<25>

「う、わ。アレン、起きてたのかよ」
「途中からですけど。何です? 今の話は僕には聞かせたくなかったと?」
「…………何れは聞かせたかもしんないけどね。でもお前さんにはもーちょっと気遣って色々遠まわしに伝えたかったかな」
「それはお気遣いどうも。でも無用です」 

 リナリーが傍へ行き手伝いのためと差し伸ばした手を丁重にお断りしたアレン上半身を起こしベッドの上に腰掛けました。
 寝疲れたとばかりに溜息を付き、

「…………師匠は知ってた訳ですよね」
「勿論。アイツは四名家は一つ、魔導師マリアン家の現当主――――――つーか、四英雄魔導師マリアンご本人様だし」
「「は?」」

 ラビが言い放った言葉にティキとアレンがポカン、とした顔でラビを仰ぎました。

「だから、ご本人様。禁術で時を止め時代ごとに名前を変えながら三百年の時を生きた魔導師様。子を成して子孫に四英雄の義務を押し付けるより自分でその義務を永遠に負い続けることを選んだ破戒者。…………ついでに俺やリナリー、コムイの教育担当だったけどまぁそれはどーでもいいか」
「…………」
「師匠…………最低三百歳…………?」
「うそーん…………」
「年齢にしか反応しないお前らに俺はびっくりさ」

 他にもっと驚くべき所があるだろう、ラビは溜息を付きます。

「だってあの人年齢不詳ですもん。何度聞いたって教えてくれないしはぐらかされるし、何気にいい年なんだろうなぁってのは予想してましたけど」
「まさか百歳越えのじーさんだとは…………」
「じーさんとか本人前にして言ってみるさ」
「やだよ死ぬだろ!!」

 ぎゃいぎゃいと騒ぐ三人をリナリーは苦笑顔で見守っています。

「あーもーいーや。爆弾ついでに爆弾も一個落としてやる」
「えー、何かまだあるんですか?」
「秘密はクロスの歳だけじゃないの?」
「つーかソコは別に秘密じゃないさ! お前らが勝手に驚いてるだけだろ! そもそもティキさっきの俺の話聞いててそれ!?」
「や、ぶっちゃけ割とどうでも…………」
「いいの!?」

 世界の重大な秘密なのに、とラビが騒ぎますが相変わらずアレンとティキはそこに反応する素振りはありません。
 
「じゃあ早い所落として下さいラビ、気になります」
「こいつの事」
「俺?」

 ラビに指さされたティキが自分を自分で指さします。

「え? 何です? ティキがどうしました? 実は馬鹿だとか実は変態だとか実はへたれだとかそういう話だったら怒りますよ」
「それ全部「実は」っていらなくね? 普通にそうじゃん」
「お前ら酷ぇ!」

 わっ、と顔を覆って泣き真似…………多分真似です…………するティキをリナリーがよしよしと撫でました。

「で? 実は?」
「実は王子様」
「「…………は?」」

 泣くことも忘れた様子で顔を上げたティキと、ポカンとした顔のアレン。

「え? …………ラビなんですかその冗談?」
「冗談じゃないさ」
「王子って何処の?」
「デザートローズ」
「「…………はい?」」

 ポカン顔継続中の二人に、ラビはビシィッ、と指を突き付けます。

「亡国デザートローズ第四王子、ジョイド=ノア=デザートローゼス。殺された最後の王と王妃の間に生まれた正統王族の一人で、存命の可能性があるデザートローズの旧王族の中では最年長。あ、ちなみに第一王子から第三王子までは王国に捕まって処刑にされたり戦争中に遺体が確認されたりして死亡が確実になってるから王位継承順位は第一位さね。こないだ会ったあの二人のバカ王子達は第八王子と第九王子らしいさ。どっちがどっちかは知らないけど」
「…………は…………?」
「理解できる? つまりお前は王子様だっつってんさティキ。亡くなったデザートローズの。…………戦災孤児の扱いだったって? 多分クロスがそうしたんだろうけど。まさか国も血眼になって追っかけてるデザートローズ王位継承順位一位の王子が自国の酒場で従業員やってるなんて思わないだろうってね」
「…………」
「どうしましょうかティキ、僕今から君のこと「王子様(笑)」って呼んだほうがいいですか?」
「いやいやいや、やめてアレンおかしくて吹きそう…………ってーかラビ、それふかしじゃないんだよね?」
「こーんなつまんない嘘つかないさ。つか疑うんだったらクロス達に聞いてみ?」
「…………」

 パチパチと目を瞬かせつつ視線を交わすアレンとティキは「信じがたい」という顔をしています。
 
「草の根雑草人生歩んできた身としては信じろって言われても中々…………」
「まぁいいやこの際。信じる信じないは任せるさ。この後お前がどうするかは勝手だし」
「えー…………」
「祖国に戻って国の再建目指すもよし、各国に潜伏するデザートローズの生き残りを集めて指導者になるもよし。はたまた、そんな面倒なもん全部ほったらかして弟にでも押し付けといて、あの酒場で従業員やりつつ副業盗賊やるってのもありだろ。お前の人生さ、好きにすれば?」
「…………」

 ラビの言葉に、難しい顔をして黙り込んだティキをアレンは暫し見詰めます。
 やがて飽きたのか視線をそらし、ラビを見詰めました。

「所でラビ。僕の出自はティキが喋ったようですが」
「ああうん、聞いたさ。…………何で魔族がお前の故郷の村を襲ったかは俺にも分からない、魔族は勇者とそれぞれの領土不可侵で合意してるんさ」
「いやそうじゃなくて、いえ勿論それもそうなんですけども。…………僕は、君の討伐対象にはなりませんか」
「…………」

 ひた、とアレンはラビを見据えます。
 暫く沈黙が落ち、

「俺は魔族の敵にはならない。狭間の子であっても、それは変わらない」
「では人の敵には成りうると?」
「…………場合によっては。俺達は、人間の勇者を目指したんじゃない。星の勇者を目指したんさ」
「…………」
「そうですか」

 何事か思うように目を閉じたアレンは数秒後目を見開き、

「ところで星の勇者(笑)って相当サムいんですけど。正直ティキの王子様(笑)よりも酷いですよラビ」
「ひっでぇぇぇぇぇ!!」

 ラビの叫び声が長く長く、続きました。
  





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